俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

音楽劇「道 -La Strada-」

音楽劇「道 -La Strada-」@日生劇場

【原作】フェデリコ・フェリーニ

【演出】デヴィット・ルヴォー

【脚本】ゲイブ・マッキンリー

【出演】

草なぎ剛蒔田彩珠/海宝直人/佐藤流司

池田有希子/石井咲/上口耕平/フィリップ・エマール/岡崎大樹/金子大介/鹿野真央
土井ケイト/西川大貴/橋本好弘/春海四方妃海風/安田カナ

 12/9(日)18:00開演、於・日比谷、日生劇場。上演時間は約1時間40分。

私はね! 原作の映画「道」の大ファンなんですよ。NHK教育テレビかなんかで、初めて観たフェリーニ映画で、ジュリエッタ・マシーナなんですよ。映画史上に燦然と輝く、フェリーニの初期代表作ですよ。

役者の草なぎ君は大好きです。でも、原作映画を知っているだけに、違和感が半端ない。あの大男が、細身の草なぎ君でつとまるの? 筋肉自慢つーか、もとから大柄で体格いいのだけを頼みにして、鉄鎖を切るだけの単純大道芸で身を立てている、粗野で人間的な思考を持つことを拒否している(おそらく生きていく上でそう選択した)男を演じられるの?

観る前から、心配しかなかった。その上「音楽劇」でしょ? 草なぎ君、歌だいじょうぶ……?(禁句)

 

ほんと、心配しかなかったですが、いざ観てみたら、思ったより原作映画に忠実な舞台でしたね。演出家のデヴィット・ルヴォーは、以前、同じくフェリーニ監督の映画「8 1/2」も、舞台「NINE」として成功させたとか。

そんで、「音楽劇」と銘打つくらいだから、ミュージカルよろしく、役者たちも歌いまくるかと思っていたら、全然そんなことなかった。ミュージシャンたちの生演奏と、時々モブが歌うくらいだったかなー。主要キャスト歌ってたっけ? 少なくとも草なぎ君は歌ってなかったと思う。ふんだんな生音のBGMで、舞台が進行していく感じですね。

ザンパノを草なぎ剛、ジェルソミーナを蒔田彩珠(まきた・あじゅ)、イル・マットを海宝直人が演じる。舞台オリジナルなのかな、佐藤流司狂言回しの道化ををつとめる。「道化」なのは、サーカスや流れ者を好んで取り上げたフェリーニ監督への敬意です。

なんかね……原作の映画を観てなかったら、もうちょっといいこと書けたのかなあ。

意外と忠実に舞台化してるし、そこはまあいいですよ。あの名作を、わざわざ舞台化する意味あんの?とは思うけど。

ザンパノの草なぎ君は筋肉を作って、細身ながらも鎖を切る大道芸人の役を全うしようとした。もともと高めの声を、最初から低く声色を作って、より男っぽく見せようとした。彼が本質的に持つ(と私は思っている)根無し草の、係累を断ち切った哀愁、切なさは、ザンパノにもあるので、そこはいい。

でもねー、やっぱり違うんですよ。体格が違いすぎるし、映画に近づけようとして、ちょっと演じすぎている気がする。声を低く作り変えているせいか、いつもより滑舌が悪く、セリフが聞き取りにくかったしね。

ジェルソミーナの蒔田彩珠ちゃんは、まだ16歳なのね。年齢より大人びた感じで、よく演じてました。雰囲気がある。でもねー、映画のジュリエッタ・マシーナが凄すぎて、こればっかりは、彼女にかなうわけないんですよ。

蒔田彩珠ちゃんは、大人びてはいるけれど、少女性が強い感じ。怒りはまっすぐだし、女というよりは巫女的かな。映画のジュリエッタ・マシーナは、もちろん怒りも露わにするんだけれど、もっと……愛や哀しみが複雑なのよ。いとけない少女であり、辛酸をなめた老女であり、それらを乗り越えた聖女であるの。

原作映画は1954年公開で、第二次大戦直後のイタリアを舞台にしています。ジェルソミーナの感情発露は、その頃の女性の表現の仕方であり、決して21世紀の、男女同権を教えられた少女ではないのです。ちょっとね、感情の出し方が素直すぎる。まあ、21世紀の舞台でのジェルソミーナ、と言われればそれまでですが。

イル・マットの海宝直人さんは、普通にうまかったです。狂言回しの道化役をつとめた佐藤流司くんは、劇団ひまわり所属で、2.5次元芝居にも出ているイケメン俳優じゃありませんか〜! イケメンは封印して、セリフもほぼない道化をがんばってます。開幕2日目というのもあるのか、少しもたつくところがあるな。もうちょいがんばれ。

 

「道」といえば、ニーノ・ロータの名曲「ジェルソミーナのテーマ」が忘れられません。

でもね……、あの曲、使われてなかったよね?

ジェルソミーナがイル・マットから教えられ、トランペットで吹くようになった、哀愁あふれるテーマ曲を、なぜ排除したのでしょう。著作権か、楽曲使用料の問題かしら。

 

映画はある意味、たわいもない筋です。だからこそ、こわい。人間というもの、残酷な愛を描いて余りない。

映画におけるアップ、引きの画面、カット割りが、舞台では使えない。それが相当、痛手です。

映画ラストの、浜辺での慟哭シーン。あれは、映画ならではのものでした。

うーん、どうしても映画が一番という感想しか出てこないですね。申し訳ない。


道(映画)/ ニーノ・ロータ La Strada / Nino Rota (Gelsomina)