俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

11年ぶりの再演

勤労感謝の日である。いい天気だあ。昼近くまで寝て、急いでごはん食べて、休日出勤だよ! まさしく勤労に感謝だよ。でも3時間で会社を出た。だって、芝居のチケット取ってたんだもん。3時間でも仕事しとかないと、ちとキビシイ状況だったの……。

大人計画「母を逃がす」再演@本多劇場

【作・演出】松尾スズキ
【出演】阿部サダヲ 宮藤官九郎 池津祥子 顔田顔彦 宍戸美和公 宮崎吐夢 猫背椿 皆川猿時 村杉蝉之介 田村たがめ 荒川良々 近藤公園 平岩紙 少路勇介
オーディションで選んだ人/松尾スズキ

11/23(火・祝)19:00開演、於・下北沢本多劇場。11年ぶりの再演です。
私は初演も観てますが、もう11年も経ったのね〜。初演からしばらくのち、会社の先輩に「糸さん、松尾スズキさん好きだったわよね? 『母を逃がす』の戯曲本、持ってる?」と聞かれたことがあります。「『母』は観ただけで、本は買ってないですね。『悪霊』『キレイ』ならお貸しできますよ」と応えると、「知人から、『母』はよいと評判を聞いたから……」と言われ、へえーっ、と思ったことを覚えてます。そんな芝居。

配役その他、かなり初演に忠実でした。チラシの写真まで、初演を意識したカットです。
だいたい再演はロクでもない結果に終わることが多いんですが、大人計画は割と見られると思います。それは再演される作品が、役者の力量によりかからなくとも (大人計画の役者は上手いから問題ないが)、戯曲自体に力があるせいじゃないかな。
最初に書いた通り、だいたいの役者が初演と同一人物を演じてました。11年の間に役者の出入りもあり、多少の入れ替えはありますが、大きくいえば「母」をのぞき、近藤公園平岩紙少路勇介が加わったと思えばOK。
一番大きな配役変更は「母」ですね。初演時に母を演じた山本密さんは、2000年初演の「キレイ」をもって退団され、代わりに池津祥子さんが演じてます。うーん……、池津さんもいいのですが、初演の山本密さんを観ていると、やはり山本さんに軍配が上がりますね。なぜなら、「母」はオカメで、自信喪失で、自己卑下がウザイ中年(初老?)女だから。池津さんも、わざわざオカメ・メイクにしてますが、彼女自身にパワーがありすぎるので (モノホンの女だからか?)、あの消え入りそうなウザ感に欠けるんですよ。あの「私なんて私なんて」と言うわりに微妙にヤーな感じ、山本さんは上手かった。池津さんだと時折、肝っ玉かあちゃんに見えちゃって。
阿部サダヲさんは、初演と髪型まで一緒。「あー! この髪型懐かしい!」しみじみしちゃいました。宮藤さんは、ヤサグレ感がアップしてましたね。以下、思いきりネタばれしますが、
私、初演後の松尾さんのインタビューやら記事やらで、松尾さんの意図を知っちゃったんですよ。まあ大半は忘れてるんですが、いまだに覚えているのは、「葉蔵と万蔵(荒川良々宮藤官九郎)はホモカップルで、元ネタは『二十日鼠と人間』、フワフワを殺したのは万蔵のほう。でも観た人、ほとんどが葉蔵だと思ったみたいなんですよね」。二十日鼠と人間、つーのはわかるけれど、フワフワは万蔵のほうだったのー! というのに驚きました。私も万蔵のほうだと思っていたので。今回の再演では、ホモカップルはともかく、フワフワの件りは分かりやすい演出になっていたと思います。

初演に忠実な作りながら、やはり再演はちがうなと思ったのは、芝居の印象ですね。初演はみんな若かったせいかスピード感があり、勢いに呑まれるところがありました。再演は渋く、より閉塞感が漂ってます。初演にあった明るい絶望感が、多少たそがれ、夕陽の色彩が濃くなったと申しましょうか。その分、トビラ(田村たがめ)の最後の独白が、いっそうもの悲しく、美しく響きます。
じっくり観られるぶん、目立ってしまったのが「どうして『母を逃がす』なの?」な点。初演のときもチラッと思わないでもなかったけれど、地介(阿部サダヲ)が「母を逃がす」のにこだわる点が、曖昧なんですよね。初演は勢いで乗り切ったぶん、再演ではじっくりしているから、気になりました。コミューンから離れられない地介の代償行為なんでしょうけれど。あ、地介のマザコンっぷりは再演のほうが強くて良かったですね。
葉蔵は後天性の知的障害者なんですが、この設定、「エロスの果て」でもありましたな。演者も同じ良々さん。
障害者、マザコン、近親相姦、同性愛、かっこわるい死 (死を聖別しない意味で)、「それでも人生は続く」というキーワード。松尾ワールドの定番で、でも定番でいいじゃない。悲しいときに屁が出る、そのおもつらさを芝居で昇華できるのが松尾さんなんだから。

今回、驚いたのがカーテンコール。大人計画はふだん、どんな拍手でもカーテンコールしないんですよ。今回はありました。しかも、紙ちゃんと吐夢さんの、年末歌番組ふうゴージャス衣裳での司会つき。早い話、ショー仕立てです。松尾さん、どういう心境変化? 再演だからおまけ? でもただのカーテンコールでは恥ずかしいからショーなの? びっくらこきましたよ。

再演ながら、昨年の「サッちゃんの明日」より満足度高し。「サッちゃん」も、それなりに面白いですよ。でもね、松尾さんの「今」がなかった。ただ過去作品をなぞった、劣化再生産としか思えなかった。あれなら、つまんなかった「ドブの輝き」のほうがましと言える。「ドブ」はグダグダながら、作・演出家の気持ちが伝わったから。「サッちゃん」はね、「こうすればハズレない・面白いと思ってもらえるだろう」というだけで、演出家の意志がない作品でした。ちょっと違うが、「YAWARA!」のあとに出た「Happy!」みたいな感じ。おまー、それ二番煎じだろストーリーテラーだから読めば面白いけどさあ二番煎じだろ!な気分。
今回の再演では、あえて初演と忠実な作りにすることで、演出家のなかで熟成されたものがあった気がします。「今」の松尾さんが演出した作品、ということ。再演でも今ならではもの、もしくはパワー・アップした何かがないと、つまんないですよね。