俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

秋や来ぬ

先の台風から、駆け足で秋が来ている。今週はじめは暑かったのに、昨夜雨が降ったら、今日はかなり涼しい。風の匂いも心なしかちがう。
先日、ちょっとしたことで太宰治の文庫本を読んだ。私は太宰が嫌いである。「人間失格」が肌に合わなかったことが九割がたの理由だ。葉蔵のウジウジ具合に、当時十代後半だった自分はイライラが嵩じて、とうとう中途で投げ出してしまった。「走れメロス」もいやらしい。とかく泣き言が多い、太宰は合わん。と読まないまま現在にいたる。
それがたまたま、新潮文庫津軽通信』を読むはめになった。どうしよう太宰がおもしろいです。心中複雑ながら、1冊読みきっちゃったよーあららん。

津軽通信 (新潮文庫)

津軽通信 (新潮文庫)

エッセイ、エッセイ風小説、身辺雑記を集めた1冊。時折り自意識がハナにつくけれど、モテるわけだなこりゃーと納得しました。意外ととユーモラス。昔、丸谷才一が太宰を評して「ユーモアセンスはあるのに、自分で言った洒落にテレて、やりすぎてグダグダになるのがいくない (超意訳・かつうろ覚え)」と言っていたのを思い出す*1。誉めてんだかケナしてるんだか分かりませんね。まだまだ、太宰に対して心中複雑なんですよ。
話が大幅に逸れた。要は、前世紀以来の太宰が予想外におもしろく、なかでも掌編「ア、秋」が心にひっかかった、ということです。

 本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。
 ……
 秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。と書いてある。焦土である。
 夏ハ、シャンデリヤ。秋ハ、燈籠。とも書いてある。
 コスモス、無残。と書いてある。


――太宰治「ア、秋」より

なかでも、

 秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。

の一言がいい。全文を知りたい方は、著作権切れの作品を集めた、ネット図書館「青空文庫」のコチラで読めます。短い作品なので、すぐ読めますよ。


急激に秋めいたこの頃、太宰のことばを思い出すわけです。でもやっぱり、自分のことを詩人といかいう奴は、テレの裏返しでもメンドーだわ、と思ってしまう散文的なわたくし。
同じ『津軽通信』文庫内でよかったのは、同名エッセイ「津軽通信」と、短編小説の「犯人」。特に「犯人」は乾いた文体と突き放した感じが非常に好み。
太宰治「犯人」(青空文庫)

*1:丸谷才一がやり玉に挙げていたのは、たしか太宰治「新・ハムレット」だったと記憶。