秋や来ぬ
先の台風から、駆け足で秋が来ている。今週はじめは暑かったのに、昨夜雨が降ったら、今日はかなり涼しい。風の匂いも心なしかちがう。
先日、ちょっとしたことで太宰治の文庫本を読んだ。私は太宰が嫌いである。「人間失格」が肌に合わなかったことが九割がたの理由だ。葉蔵のウジウジ具合に、当時十代後半だった自分はイライラが嵩じて、とうとう中途で投げ出してしまった。「走れメロス」もいやらしい。とかく泣き言が多い、太宰は合わん。と読まないまま現在にいたる。
それがたまたま、新潮文庫『津軽通信』を読むはめになった。どうしよう太宰がおもしろいです。心中複雑ながら、1冊読みきっちゃったよーあららん。
- 作者: 太宰治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/10
- メディア: 文庫
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話が大幅に逸れた。要は、前世紀以来の太宰が予想外におもしろく、なかでも掌編「ア、秋」が心にひっかかった、ということです。
本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。
……
秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。と書いてある。焦土である。
夏ハ、シャンデリヤ。秋ハ、燈籠。とも書いてある。
コスモス、無残。と書いてある。
――太宰治「ア、秋」より
なかでも、
秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。
の一言がいい。全文を知りたい方は、著作権切れの作品を集めた、ネット図書館「青空文庫」のコチラで読めます。短い作品なので、すぐ読めますよ。
急激に秋めいたこの頃、太宰のことばを思い出すわけです。でもやっぱり、自分のことを詩人といかいう奴は、テレの裏返しでもメンドーだわ、と思ってしまう散文的なわたくし。
同じ『津軽通信』文庫内でよかったのは、同名エッセイ「津軽通信」と、短編小説の「犯人」。特に「犯人」は乾いた文体と突き放した感じが非常に好み。
・太宰治「犯人」(青空文庫)