俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

見たままの悪漢

「リチャード三世」のポスター

赤坂ACTシアターで、古田新太主演「リチャード三世」を観てきた。ロビーが狭っ! 話には聞いていたけれど、すんごく狭っ! 2階席は急勾配でした。でも観やすいかも。
帰りに、赤坂サカスでごはん食べようとしたら、モール全体が休業だったよ! やる気あんのかなーサカス。駅直結のエスカレーターも、一部電源切られてたし、なんだかなー。

PARCOプロデュース「リチャード三世」

【原作】シェイクスピア
【翻訳】三神 勲
【演出】いのうえひでのり
【出演】
リチャード三世:古田新太   
アン:安田成美        ヘイスティングズ卿:山本 亨
スタンリー卿:榎木孝明    エドワード四世:久保酎吉(1月)
バッキンガム公:大森博史   クラレンス:若松武史
ヨーク公未亡人:三田和代   ケイツビー:増沢 望
前妃マーガレット:銀粉蝶   ラトクリフ:西川忠志
王妃エリザベス:久世星佳   リッチモンド伯:川久保拓司
リバース卿:天宮 良      ドーセット侯:森本亮治
逆木圭一郎/河野まさと/村木 仁/礒野慎吾/吉田メタル/川原正嗣/藤家 剛

1/25(日)13:30開演、於・赤坂ACTシアター。上演時間は3時間20分 (休憩20分含む)。長かったけれど、思いのほかとっつきやすかったし、衣裳も現代風味付けがされていて面白かった。新感線の、いのうえ演出が目当てだったが、裏切られませんよ〜。

久しぶりに、古田さんがかっこよく見えたよ! 如何にいのうえさんが、古田さんのリチャード三世をかっこよく見せようと腐心しているか、わかります。いのうえさんのミューズは、やっぱり古田さんなんだなあ。
古田さんの次に位置づけされた安田成美は、きれいだけどそんだけ。少ない出番に印象も薄いし、なんで彼女が二番手の重い扱いなの?(事務所?) カーテンコールもしかり。力量をみせた久世星佳が脇から数人での登場なのに、成美が1人、中央ぶちぬきモーゼの海渡りなのは納得いかん!

舞台セット演出は「SHIROH」。モニター使いや照明など、けっこうかぶりましたね。モニターに関しては、さすがに使い方がレベルアップしてた。銃や携帯電話、バイク鉄道、TV生中継の揶揄など、うまく現代要素を取り入れている。時事ネタもこっそり仕込んでいて、笑った。CHANGE! YES I CAN! 衣裳もグランジヴィヴィアン・ウエストウッド風に崩していて、よい。
いのうえさんは本当に「悪漢」が好きなんだな、と思った。リチャード三世はとことん「悪」なのね。その冷血ぶりと悪を、古田に素敵に演じさせることに集中している。ほとんどその内面に触れない演出に、いさぎよさを感じたくらい。リチャードが醜男で劣等感のかたまり、というのは、いじりがいがあると思うんだけど、敢えて(?)さらっと素通りしている。
アンを口説き落として「俺もまんざらではないらしい、鏡でも買うか」と軽口を叩くシーンのあと、でっかい鏡が置いてあるんだが、別に何ごともなくスルー。「小さい頃から、親に愛されなかったんだな」と思わせる台詞が1点あるが、大げさには言わせない。彼の内面は彼にしか分からない、ちょうど舞台中の台詞で「どんなに親しくしていても、隣にいても他人の心は分からない、自分の心も他人には見えない」とあるように。観客は、「悪」になってからのリチャードしか知らないのだ。いのうえ版のリチャードは、一人で孤独にパソコンに向かい、2文字の単語を連打する姿に集約される。ネット掲示板に出入りしていた、秋葉原事件の犯人を彷彿させるような……。あそこは鬼気迫りました。
まあ、でもそんな難しいこと考えるより、いのうえ演出の妙に酔ってほしいです。いのうえさんが、観客に向けて書いたあらすじ紹介に加えた言葉通り、「要は、リチャードが次々に人を落し入れ、裏切り、王になってゆき、やがて堕ちていくだけの話」。「あまり構えずに見たまま楽しんでいただければいい」、その通りに観るのが一番ですよ。

初のシェイクスピアで、古田さんも、いつもより気合が入っていたのではないかしらん。いやー、ほんとにかっこよかった。ネットで見つけた、以下の記事を紹介して終わりたい。

古田新太シェークスピア作品に初主演
……そんな大役に古田を指名したいのうえ氏は「『リチャード三世』的な悪役を前から古田で上演したい、いつかやろうと思っていたんです」。7月の新宿コマ劇場石川五右衛門役で主演するなど悪役が多い古田も「シェークスピアの中で一番好きな演目なので、頑張ります」と、これまでにない古田流大悪党を目指す。アン役には97年「シルヴィア」以来2度目の舞台となる安田が出演。シェークスピア初挑戦だが、いのうえ氏は「女のもろさや弱さ、母性などいろいろなものが出るんじゃないかと思っています」と期待する。
――2008年8月27日付「日刊スポーツ」