俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

松尾スズキの「キャバレー」

この2、3週間ほど、週末のあいている時間は、音源データの整理・MD落とし。でも夕方からは青山劇場ですよ。
松尾スズキ演出・日本語台本「キャバレー」。
松雪泰子森山未來の二人以外、メイン級がみんな小劇場出身者。しかし、ちゃんとミュージカルだった。松尾さんぽい台詞や動きを散りばめながらも、手堅い演出だったと思う。歌も皆うまかった。小松さんがあんなに歌えるなんて! びっくりだよ!
カーテンコールに、松尾さんが出てきてくれて(阿部サダヲさんが呼んでくれた)お得気分。お顔が、おまんじゅうのようでした。大丈夫か松尾さん。サダヲさんもそろそろ痩せたほうが……。
こまかい感想は下記参照。先日の『らも』日記(id:orenade:20071003)に書き忘れたことだけ、ちょいと。
『らも』を読んで、中島らも松尾スズキにかぶるものを感じた。二人とも鬱気質。笑いの捉えかたが同じ。芝居、文筆業。一つ所にとどまらない活躍。そんなことを知人に話したら、「二人とも、本当になりたいものにはなれなかった、という共通点もあるよ」。たしかに! 挫折を味わっているのね。もともと松尾さんは漫画家志望、らもさんはミュージシャン志望。Wikipedia:中島らもを見ると、らもさんは漫画も書いていたらしい。そこもかー。松尾ちゃん、生きれ。

PARCOプロデュース「ミュージカル キャバレー」

【台本】ジョー・マステロフ 【美術】高野華生瑠 
【作曲】ジョン・カンダー  【音楽監督・編曲】門司 肇
【作詞】フレッド・エブ   【振付】康本雅子
【翻訳】目黒 条       【舞台監督】二瓶剛雄

【日本語台本・演出】松尾スズキ
【出演】  サリー・ボウルズ:松雪泰子 
             MC:阿部サダヲ    
クリフォード・ブラッドショー森山未來
     ミス・シュナイダー:秋山菜津子
          シュルツ:小松和重
 エルンスト・ルードヴィッヒ:村杉蝉之介
        ミス・コスト:平岩紙
星野源 花井京乃助 羽田謙治 大川聖一郎 長田典之 川島啓介 小林遼介 町田正明 安田栄徳
康本雅子 安藤由紀 宇野まり絵 坂上真倫 久積絵夢 西林素子 宮本えりか
http://www.parco-play.com/web/play/cabaret/

10/14(日)17:30開演、於・青山劇場。上演時間は2時間50分ほど (休憩15分含む)。あれ、休憩は20分だったっけ?
松尾スズキさんの、ドクターストップによる活動休止(松尾スズキ過労で「ドブの輝き」降板:nikkansports.com 2007年5月2日付記事)より約半年、これが演出・復帰作となる。降板の「ドブの輝き」が微妙だった (松尾節は好きなんだけど、絞りきれてなかった) のもあり、正直心配だった。
でもよかったよ松尾ちゃん!
元のブロードウェイ版も、映画版も観ていないので、比較はできないし、どう違うのかもわからない。でも、かなり台詞が松尾チックなので、かなり変えてるんじゃないかなあ。
大舞台の使いかたが上手だ。久々に松尾さんの才能を感じた。演出も、大人計画を知っている人/知らない人の両方が楽しめるように配慮されている。限界を計算して、松尾色を出しつつも、飲み込みやすく仕立てられていますね。でもつまんなくないの。うまくて、おもしろい。
思ったより、ちゃんとミュージカルだった。歌への流れもスムーズで、このへんにも松尾さんの演出を感じる。
ナチズムと全体主義の扱いについては、この程度だろうなーと思っていたので、何とも思わない。「キレイ」のときに、戦争は物語を進めるための小道具にしか思っていない、と語っていた人です。思想からは遠く離れた人で、見ているのは人間、ですから。むしろ、ちゃんとナチの擡頭を描いているなと思ったくらい。
それと、やっぱり飲み込みづらいと思う、日本人にナチは。これくらいあっさり見せたほうが、かえって分かりやすいんじゃないかな。
カーテンコールに、サダヲさんが松尾さんを呼ぶハプニング。ありがとうサダヲちゃん! 松尾さんが「呼ぶなよ〜」という感じで、サダヲちゃんを小突いていたのがかわいかった。

役者陣もいい。主演の2人(松雪泰子森山未來)を除く、ほぼ全員が小劇場出身。いわゆる「ミュージカル役者」がいないミュージカル、って改めて思うとすごいね。歌は全然期待していなかったけれど、音程はずれもなく、意外にみんな歌えていてびっくり。阿部サダヲ秋山菜津子さんの2人は別格として、小松和重さんがここまで歌えるなんて! どうしよう…好きになってしまいそう……。
歌える、といってもカラオケレベルの方もいたが、本業ミュージカル人ではないので気にならず。ミュージカル役者のくせに、声は小さいわ歌下手だわ、というのを見てると、素人のほうが腹が立たなくていいですね。音程がはずれないだけでも偉い。しかも、本業が役者なので、演技力ばっちり。すんなり物語に入っていけて大満足です。半端なミュージカルより、よっぽどいいわあ。やはり自分にとっては、演技・心情>>>>>歌、のようだ。
以下、役者陣の感想、箇条書き。
・未來くんの飛び蹴りがきれい! すごく高く飛んでて、形もきれいに決まって、感動した。
・松雪さん、役に合っていない。きれいだけど細すぎ、色気がない。美貌と色気は別物だとわかった。もっと、サバッとした役が似合うと思う。スポットライトを浴びていないときの動きが、なんか手抜きに見えた。
・小松さん好き好き。シュルツとミス・シュナイダーの、大人の恋にしびれた。
・クリフの性的嗜好が明らかになったとき、「クリフとルードヴィッヒは、もしや……」と勘ぐったことを告白しておきます。ただ、クリフの未來くんはOKだけど、ルードヴィッヒが村杉さんだと思うと妄想が止まるね。
・何かとクリフを気にかけるルードヴィッヒに、ゲイなんじゃないか疑惑。でもナチ党員にゲイはいないか (ナチスユダヤ人のみならず、ジプシー、障害者、同性愛者なども差別迫害、強制収容所に送った)。いやでも無意識下で…(以下ループ)。
・小松さん素敵です。

「キャバレー」では、若者(クリフとサリー)と初老(シュルツとミス・シュナイダー)の、2組の恋が描かれる。対比構造になっているが、断然、シュルツとミス・シュナイダーの大人の恋がいい。演じる小松・秋山がうまいのもあって、ほんとによかったなあ。対して、クリフとサリーはいまいち。2人が恋してる風には、どうにも見えん。松雪さんがサリーに見えないのも痛い。この2人の関係性はむずかしいと思うが、そのへんの機微が、はっきり掴めないまま終わってしまった。
ラストのあっさり加減も、クリフの心情がわからず、少々唐突だったが、パンフレットを読んで謎が氷解。クリフはトラベラーだったのね。なるほど。
サダヲさんのMCも、まんまサダヲさんすぎて「猫田か暴動か*1」という具合。それだけが不満だったんだけど、「シアターガイド」2007年11月号を読んで納得。そういう演出だったんだ!

「とにかく最高の笑顔で出てこい」って松尾さんに言われて。僕としてはMCってもっとかげりのある感じかと思っていたんで、ちょっと意外な指示出しでした。しかもそのあとでお客さんに「元気ですか〜」って言うせりふがあるんですけど、それも「猪木で (言って)」って言われて……。まあ、松尾さんに言わせると「お前のMCにかげりなんていらないよ」ってことらしいです(笑)。
――「シアターガイド」2007年11月号、阿部サダヲ インタビューより

「猪木で」に笑った。
去り行くクリフと残るキャバレーの舞台、廃店先のガラクタから出てきて、ガラクタの中に消えるMCの姿に、松尾さんの舞台観(人生観と言ってもいい)が見える。まさに、本舞台の惹句そのままだ。
「人生の全てがここにある。ようこそ、松尾スズキのキャバレーに。」

*1:木更津キャッツアイ」の猫田、「グループ魂」の暴動。どちらも役名です。