俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

二つの舞台

めったにやらないのだけれど、平日の夜に芝居鑑賞。シアターコクーンで「労働者M」です。非常に緻密で、完成された舞台。前夜の「桜飛沫」とのちがいを、あれこれ考えちゃった。結局は、お互いの特性のちがいに行き着くのだけれども。
また、前日の芝居感想の最後に、楽日のカーテンコールの様子を追記しておきました。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ「労働者M」

2/20 (月)、19:00開演、於・シアターコクーン。上演時間は3時間25分 (休憩15分を含む)。「ナイロン100℃」のケラリーノ・サンドロヴィッチさんのお芝居です。プロデュースは東急Bunkamuraで、「シアターコクーン・オンレパートリー2006 オフィシャルサプライヤーシリーズ vol.352」とのこと。長ーい。

【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【美術】中越
【音楽】伊藤ヨタロウ
【出演】堤真一 小泉今日子 松尾スズキ秋山菜津子 犬山イヌコ 田中哲司 明星真由美 貫地谷しほり 池田鉄洋 今奈良孝行 篠塚祥司 山崎一
第1幕 19:00〜21:00
第2幕 21:15〜22:25

冒頭の前説、ニセ堤とニセ小泉に大笑い。最初はてっきり、スタッフさんが「携帯電話の電源は〜」などと言うやつかと思ったが、この二人がやけにうまい。間とか声の調子とか、姿勢がいいのね。ニセ小泉=明星真由美さんはすぐ分かったけれど、ニセ堤=池田鉄洋さんは、ちょっと時間がかかりました。うっかり美声に聞き惚れてた。
イケテツさんの濃い太眉は、2階のA席からでも「目の3倍あるー」と思うくらい、自己主張してました。イケテツさんは切れ長細目の太眉で、それも刷毛ではいたような均一に太い眉なのです。見るたびに「麿」だなあ、と思う。「おじゃる」って言わせたい! 明星さんは、ちと痩せた? 彼女の舞台が観られて嬉しいです。

ケラさんの舞台は、「下北ビートニクス」「ドント・トラスト・オーバー30」くらいしか観てなくて、どちらもピンとこなかったもの。ケラさんとは合わないのかなあ、と思ってたけれど、今回は役者陣がすごすぎなので、思いきってチケットを取りました。
取ってよかった!
先の2つの舞台は、個人的には平板でしたが、今回は3時間以上の上演時間でも長く感じなかった。笑いの部分も楽しめた。ケラさんの舞台は緻密だと、知人が言っていたのを初めて理解できました。確かに! 笑いの間も暗転も、非常に計算された感じ。役者陣がまた、うーまーい。来てほしいときに来てくれる間合いのよさに、生理的な気持ちよさを覚えました。止め絵のシーンも、ピタリと動かないの。

近未来の収容所「労働者M」の世界と、現代のとある事務所の世界とを、パラレルに往き来する構造の舞台。二つの世界は、あいまいにつながっている (ように思える)。貫地谷しほりさんの役が、わかりやすいかも。アヤカ(現代)は夫の死の究明のため、毎日事務所にやってくる。レナータ(近未来)は自分の中に入りこんだ他人の記憶のため、毎日収容所にやってくる。
堤さんは、革命労働家ゼリグの役がよかった。松尾スズキさんの役名「ランプ」は、手塚治虫のキャラクターから来ているのかな。キャラの性格も似てると思う。にしても、松尾さんのクネクネ具合がたまりません。軟体動物のような動きに、両生類の水っぽさ。時折、リスのように可愛らしいの。田中哲司山崎一さんも安定した魅力。小泉今日子も、そんなに悪くなかったよ。(どうしても、アイドル時代の大根ドラマ「少女に何が起こったか」の記憶が拭いきれない……)

とまあ、内容も役者も演出も、かなり満足の舞台だけれど、あとに何か残るか、と言われたら特にないな。つまらない、という意味ではない。舞台があまりにも「完成形」だからです。感心して眺め、見終わった瞬間に完結して、引っ張らないのね。つい昨夜の「桜飛沫」と比べてしまうが、長時間の上演が気にならなかったのは「労働者M」の方だし、総合的な完成度からいっても、やっぱり「労働者M」だろう。しかし、あとで思い出して、あれこれ考えちゃうのは、「桜飛沫」の長塚圭史なんだなあ。
圭史の舞台が、よくも悪くもあとまで引っ張るのは、「揺らぎ」と「ほころび」があるからだと思う。ケラさん自身にも揺らぎはあると思うのだけれど、それを舞台には見せず、現時点での完成形をあげるようにしているのではないかしら。美学ですね。ダンディズム。圭史はわりと、揺らぎをまんま舞台にのせるほう。ほころびは収まりきらない世界であり、揺らぎは酩酊である。真夜中に開けるビールのように、わたしは舞台を観に行く。