俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

「レ・ミゼラブル」初観劇

今日は午後半休をとって、優雅な昼下がり。14:00近くまで仕事して、その後丸の内付近に出る。快晴の街角を眺めながら、カフェでおしゃべりを楽しんでいる状況に、ものすごい解放感。いつもはこの時間、仕事でデスクにかじりっぱなしなのに! 今だったら、誰にでも優しくできるな〜と思うくらい、満ち足りた時間でした。
で、夕刻、帝国劇場へ移動。カフェのお茶は前菜、本日のメインディッシュは「レ・ミゼラブル」ですの。ミュージカルには興味ない自分が、まさか積極的に観ようと思う日が来るなんて。2003年版「レ・ミゼ」に山本耕史君が出演、今年は出ていないけど、そこから興味は始まったのだった。

観劇後は、ソッコーで「レ・ミゼラブル」CDを買い求めたくらい、満足。「レ・ミゼ」は役柄ごとに複数人のキャスティングで、日々組み合せが異なるのだが、雰囲気がどう変わるのか「他の組み合せも観たい!」と思わせてくれました。細かい感想は下記。
CDは、出演者別や国別にさまざま分けられていたが、別所バルジャン&山本マリウス版を購入。劇場から有楽町駅までの短い距離を、ずっと感想を言い合って帰る。素晴らしき平日。

ミュージカル「レ・ミゼラブル 2005」

5/17 (火)、18:00開演、於・帝国劇場。上演は3時間、休憩は1回、30分間ほど。プリンシパルの配役は以下の通り。

バルジャン:山口祐一郎    ジャベール:岡幸二郎
マリウス:岡田浩暉    アンジョルラス:東山義久
エポニーヌ:新妻聖子   ファンティーヌ:シルビア・グラブ
コゼット:知念里奈  ティナルディエ夫妻:徳井優森公美子

翻訳ミュージカルを観るのは、昨年の「ジーザス・クライスト・スーパースター」以来、2度目。ああ、でもどうして、ミュージカルって、普通の台詞でも「♪わたしは〜」と音楽にのせないと気がすまないのかしら。それはミュージカルだから。ぎゃふん。ただし「レ・ミゼ」は、たまに普通の感覚で台詞を言ったりします (といっても、片手程度の回数だけど)。

「廻り舞台がすごいよ」と聞いていたのだけど、ほんとにすごかった! 場面の転換や風景の移動を、ぐるりと舞台を廻らせるだけで観客に見せる。個人的に気に入ったのは、
・エポニーヌとコゼットの再会場面
 (エポ視線とコゼット視線を交叉させ、二人の心情をあらわす)
地下水道で、バルジャンが傷ついたマリウスをかついでいく場面
 (照明効果とあいまって、時間の経過がわかる)
など、登場人物の心情や立ち位置を、舞台を廻らせることによって示す演出でした。

山口バルジャンは、歌はさすがだったのだけど……、どうも引っかかりを覚えず。山口バルジャンは大人(たいじん)の気風で、その鷹揚な雰囲気が、わたしのジャン・バルジャン像と合致しなかった。人生の重みに苦悩するバルジャンが好みなんだなあ。山口バルジャンは、市長の頃が一番似合っていたと思う。
バルジャンを追いかける冷徹な刑事、岡ジャベールは素晴らしかった。歌はもちろん、謹直な感じがよく出ている。バルジャンとの対決、および自殺シーンが忘れられない。
「罪人」バルジャンに助けられ、初めて己の信条に揺らぎが出たジャベールが、バリケードの死体を次々と改めるところ。「死んでいてほしい (自分が罰しなくてすむから)」「生きていてほしい (人間の心情として)」、泣く。
法の番人として、バルジャンと再会するも、その立場を捨てて見逃したあとの自殺シーンは、原作でも特に心に残る場面だったので覚えている。子供向けのダイジェスト版「ああ無情」ですが、“ジャベール刑事は、橋の上からずっと川の流れを見下ろしていました。と、やおら欄干をのりこえ、川面に身を躍らせたのです。川はただ流れ、だれもそれに気づく人はいませんでした”と、確かこんな感じの悲し〜い場面。もともとジャベールが好きなので、もう、岡さんでよかったー。

岡田マリウスは、とにかくすごかった。世間知らずで気弱なぼっちゃん、庇護欲をそそるマリウスですね。頼りないのが、かえって武器だわ。風邪からすぐ肺炎になるタイプだが、実は強運の持ち主。川にはまっても絶対に助けられて、反対に助けた相手が風邪をひく、みたいな。学生仲間の間でも、マスコットボーイのように愛されてそう。学生のリーダー・東山アンジョルラスは、元ダンサーだけあって、立ち姿の美しいこと! きびきびした動作が、いかにもリーダーである。たまに、いっぱいいっぱいかなーと思ったが、全体的に好印象でした。
岡田マリウスと東山アンジョルラスが、バリケードで (おそらく死を覚悟して)ぐっと一瞬、抱擁する場面に、なんだか赤面。この抱擁は、岡田マリウスのときだけみたいですね。いやー演出さん、good job!

女性陣では、新妻エポニーヌが一押し。シルビア・グラブさんのファンティーヌは、かよわい存在というより、蹴られながらも、きっと睨んで反抗する強い女性に見えました。死の床にいるバルジャンを迎えに来るシーンも、「ちゃんとコゼットを育ててくれたんでしょうねッ!」と、チェックしに来たように見えて、ほんの少しだけ笑ってしまいました。(本当はとても感動的な場面で、笑いながらも胸にきたのですが)
なかなかよい組み合せのキャスティングだったのに、ひとつ残念だったのが、知念里奈のコゼット。なにあれー。彼女が出てきて、歌いはじめたとたん、カクッときたよ。声量もないし、演技も特に見どころなし。正直ジャマ。エポニーヌほど、女性の共感が得られないコゼット役はむずかしいとは思うけれど、それにしてもちょっと……。

今回、岡ジャベール、新妻エポニーヌにならんで気に入ったのが、ティナルディエ夫妻。徳井優さんは歌えるのか、少々心配だったが、すっごくよかった! 歌自体は、ときどき不安定だが許容範囲。森公美子さんの妻とノミの夫婦で、その対比がすでによい。コミカルで、同時にこすっからい小悪党の徳井ティナルディエは、踏まれても何食わぬ顔で立ち上がる庶民代表の役を、よく演じてました。森公美子さんは、歌もよし芝居っ気もよし、いいコンビだったと思います。

最後に、上では書ききれなかった好きな場面や歌を。
まず、冒頭の司教が銀の食器を与える場面。泣いた。
「ピープル・ソング」の盛り上がり。「カフェ・ソング」で先に逝ったアンジョルラスたちが出てくる演出。泣いた。
とにかくラスト。ええ話や……、泣いた。
カーテンコールは5回ほど。楽しいカーテンコールでした。