俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

花と嵐

予報では曇り・雨のはずだが、晴れた。しかし強風。窓ガラスや玄関扉を、風がばんばんと打ちつける。外に出ると、あちこちで花の竜巻にまかれた。

 君 勧 金 屈 巵
 満 酌 不 須 辞
 花 発 多 風 雨
 人 生 足 別 離

巵は「盃」、須は「用いる、すべからく」、発は「ひらく」、足は「余るほどある、多い」の意。花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ――井伏鱒二訳の原詩、于武陵の「勧酒」です。

夕方から新宿へ。デパートをいくつかチラ見しながら「シアターモリエール」に到着。

劇団、本谷有希子乱暴と待機

4/10 (日)、19:00開演、於・新宿シアターモリエール。上演は2時間ほど。
作・演出:本谷有希子
  出演:馬渕英里何、市川訓睦、多門優、吉本菜穂子
 公式HP:http://www.motoyayukiko.com/index.shtml

この劇団の芝居を観るのは、これで2回目だ。前回の「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」がよかった(感想はid:orenade:20041113)ので、チケットを取った。が、今回は……ちょっとなあ。
先に書いておくけど、この日は頭が重く、あまりいい体調ではなかった。つまり、最初からテンション低かったわけです。そのせいもあるかも、と思いつつ、以下「ちょっと」な点。役名が記憶あいまいのため、役者名で統一します。

まず、多門さんの声嗄れがひどかった。公演3日目で、あれはないと思う。多門さんは初見の役者さんで、こちらがニュートラルな(愛がない)分、声嗄れにはきびしいよ。極端な話、それだけで「なっちゃねえな」と思うときもありますから。体調管理は基本でしょう (花粉症だったらごめんなさい)。セリフは聞き取りづらいし、芝居よりも声嗄れのひどさの方が気になって集中できないし、いいことないです。後半、少し持ち直しましたけどね。多門さんの、表情はよかったですよ。声嗄れしてなければなあ。かなりよかったのに。
次に、吉本さん。シャウトしすぎ。聞き苦しいし、シャウトは演技が全部同じに見えるんだよね。冒頭と終盤のつながりのシーンは特にそう。シャウトの連続以外で、激情を表現できるといいと思う。吉本さんが出た芝居は、他に2本観たことがあるけれど、それらとは違った役なのは嬉しかった。が、役柄のせいか、一本調子になったのが惜しい。時にふと、イケズながらも人のよさが垣間見られるのは吉本さんだから、だと思うので、まだこなれてないのだと思いたい。

市川さんも初見の役者だが、嫌いな人ではない。でも、役柄が突出している分、演じやすいところはあるかもしれないし、現段階では「嫌いじゃない」ということで。
英里何ちゃんは、卑屈なまでの顔色伺いが、かえって他人をいらつかせる、という役をよく演じていた。これは芝居だと思っても、いらつきましたもん。一番振りきれてて、安心して観ていられた。
舞台セット、好きです。

さて、以下は内容について。一部ネタバレを含むので、お好きな方だけお読みください。

ネタバレあっても、いいですね? では続けますよ。
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多門さんと市川さんは職場の同僚だが、その職種と業務内容がキーポイントの一つになっている。だけど、どうしてもその仕事でないとだめだったのだろうか。個人的に、そうは思えなかった。まだ若いなあ、と感じたところ。
制服姿で、多門さんが「よく平気ですね」「ボタン押したくない」というところで、どういう仕事かは察しがついた。感情を殺して執行する市川さんの性格と、隠れたストレスを見せるためなんだろうけど、過激であればいいってもんじゃない。「制度問題」とか、余計なものもくっついてくるんだ。それは話の本筋には全く関わってこないし、小道具的に使うには意味出すぎ。制服やボタンの数、現場の人数、音楽など*1、実際の現場とは違うフェイクを施していたが、そこまでしてやる意味あるの? 「その瞬間は2人だけ、周囲に見ている者がいない」情況にするためかもしれないが、実際には違うことを知っている者には、冷めた。

多門さんが、市川さんと英里何ちゃんの二人にこだわり続けるのも、ちょっと無理があるような……。吉本さんの「あいつらやばいよ! やめようよ!」が、一般的な反応だと思うし。物語最後の方で、多門さんが変な人好き、という暗示がちらと出てくるが、それは最初に伏線を張っていただきたかった。急には納得しづらいっす。
伏線から先読みができ、そのまま腑に落ちる展開なのも、物足りなさを覚えたところ。前回もそういう嫌いはあったが、今回の方が強く感じた。

……とまあ、からいことばかり書いたが、世界観自体はきらいじゃないので、今後もがんばっていただきたいです。好きなセリフなんかもありましたし。辛さは期待値の裏返し、ということでお願いします。

*1:実際は6人で6つのボタンのはず。他にも上司や宗教者が立ち会うし、音楽は流さないと思う。芝居中での音楽の使い方は、人間をロボットのように扱い、「生産性」と尻を叩く感じを出したかったのだろうか。