俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

新生阿佐スパ

阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」@吉祥寺シアター

【脚本・演出】長塚圭史
【出演】
中村まこと
大久保祥太郎/木村美月/坂本慶介/志甫真弓子/伊達暁/ちすん
長塚圭史中山祐一朗/藤間爽子/森一生/李千鶴

8/19(日)13:00開演、於・吉祥寺シアター
昨年までユニットだった阿佐ヶ谷スパイダースが、何を思ってか、時代に逆行して「劇団」化! そんなに劇団員を増やして大丈夫……?と心配になりつつ、新生・阿佐ヶ谷スパイダースの第1弾公演を観に行ってきました。まあ、劇団員といっても、阿佐スパ専属ではなく、本属(?)は他劇団、という人が多いのですがね。
そんな劇団員の一人、中村まことさんが、タイトルロールを背負った主演をつとめております。あーん、まことさんカッコいい〜〜〜! ダメ男なのに、なんでこんなに渋くカッコよく見えるんでしょ。ほんっと、この人、芝居うまいよなあ。

あらすじは、紹介するのが難しいな。まことは、売れない自称漫画家で、妻を病気か何かで亡くしたばかり。亡き妻の弟(長塚圭史)が、妻子を連れて、まことのもとを訪れるが、ちょうど留守中だった。まことの住むボロアパートの住人たちも、癖のある者ばかり。
まことはバイトで交通整理をやっているが、妻が亡くなってからというもの、身が入らず、同僚の若い男の子に叱責される始末だ。実は、まことの妻は、医療事故による過失死の疑いがあった。そのことを言い立て、病院と執刀医を訴えて金で解決させたがっているのが妻の弟で、彼は不倫で会社に居場所がなくなり、金が欲しいのだった。
話が進むうち、そこかしこでダブルミーイングが見られる。亡き妻の弟は不倫をし、仕事も金もどん底だ。その妻は自分から別れる気はないが、自らを卑下して夫とのコミュニケーションは噛み合わない。一人娘は、そんな両親を冷めた眼で見ている。
一方、妻の弟が医療過誤を責め立てる執刀医も、これまた不倫をしており、引く気のない不倫相手と、攻撃的だが別れる気もない妻との間で板挟みになり、酒だかクスリだかで朦朧としているときに執刀を誤ってしまったのだった。一人息子は、父には憎しみを、母にはとりあえず従順にしてみせるが、時折冷めた様子をみせる。妻の弟と執刀医は、一対の鏡であると言えよう。
一方、まことは、妻の死因には興味がない。彼にとって重要なのは、愛する妻がこの世にいないことだ。執刀医を責めても、妻が生き返るわけでなし、と、そこはやる気がない。ただ、妻の思い出を掘り起こし、妻の服を自ら着てみては、妻の余韻に浸る。
主人公の名前「まこと」は、役者の芸名と同じで、タイトルロールでもある。今の生活が真(まこと)なのか、それとも妻の幻影とともに生きる裏側が真なのか、医療過誤が真なのか、嘘なのか。東京オリンピックを控え、東京の街並みもどんどん変わっていく。妻と歩いた風景がなくなっていく。同じ場所を歩いていても、それは果たして、前と同じ空間なのか。何が「MAKOTO」なのかを問い続ける。
妻を失ったまことの悲しみは、なぜかエネルギー爆発に変換されて、世に現れる。人の想いの質量、とは何でしょうね。
そんなお話でした。東京オリンピックに向ける街並み変化を、暗に当てこすった描き方は、明治に背を向けて江戸の幻を追い求めた永井荷風に通じるものがあるかも。

役者陣は、玉石混交という感じ。役者の芝居の出来に、差がけっこうあったな〜。今回は、中村まこと、という役者に尽きます。もともとの阿佐スパのメンバー3人もよかったですが、あとは森一生さん。最初はうまいとは思わなかったんだけど、最後の芝居がよかったです。