俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

久しぶりの松尾ちゃん

大人計画の本公演「サッちゃんの明日」を観てきた。本公演ながら、劇団員全員ではありません。でも客演3人。同行者に言われるまで気づかんかった。家納ジュンコさんが超絶いい。大人の劇団員か! と思うくらい、“らしい”。年々ミュージカルっぽいシーン(あくまでも“ぽい”)が増えていくのに、松尾さんの疲れ具合と癒されたい度を計ってしまいますな。面白かったですよ。ちょっと昔の、人の悪そうな舞台で懐かしい。しかし昔ほどのインパクトがあるかというと、それはまた別。今まで観すぎてるからかな〜。しかし、松尾さんの舞台は叙情があってよい。細かい感想は後日。
劇場が三軒茶屋だったので、帰りに近所の無印良品に寄った。インド綿のラグを買い (実家の自室用)、実家まで配送をお願いする。織りが少し甘めに感じたが、まあ問題ないでしょ。舞台を観終わって、かんたんショッピングして、まだ17時。茶沢通りを歩いて、下北沢まで行く。けっこう近いのね! で、いい時間になった頃、お店に入ってビールで乾杯。

大人計画「サッちゃんの明日 (あした)」

【作・演出】松尾スズキ
【出演】鈴木蘭々 宮藤官九郎 猫背椿 皆川猿時 星野源 家納ジュンコ 小松和重 松尾スズキ

9/27(日)14:00開演、於・世田谷シアタートラム。上演時間は約2時間10分。
大人計画の本公演は、2007年「ドブの輝き」以来。その間、松尾演出で「キャバレー (07年)」「女教師は二度抱かれた (08年、脚本も同人)」があったけれど、“大人計画”としては2年ぶりですな。松尾版・朝の連ドラ、というのが公演前の惹句。
面白かった。面白かったし、笑いもまんべんなくまぶされてたし、台詞も相変わらずうまい。よーくできてるんだけれど、どうしても思ってしまうことがある。「既視感」だ。
松尾さんが「ぴあ」誌上で、「久しぶりに悪い芝居を書く」「最近の大人計画しか観ていない客が驚くようなものを」と語っていたが、悪意はない芝居だった。偽悪的というほどの気取りもない、非常に率直でリアルな話。とっぱらった台詞が多かったものね。分かりやすいというか、むしろ「分かって!」という感じ。
「ヘブンズ・サイン」「キレイ」のように、時事とリンクしがちなのが松尾作品。今回のコナも、あ、被っちゃったのね、と思いました。「サッちゃんの明日」がよくできていて、しかし既視感バリッバリなのは、松尾さんの得意テーマがてんこもりだからかもしれない。得意というと語弊があるか、離れられないモチーフ、というべきかしら。いわく、
・障害
・身内
です。他にも細かく、寝取られ、マザコンなどあるが割愛。大人計画は1996年「ファンキー!」からなので、それ以前の作品傾向は知らん。希死念慮も入れようか迷ったけれど、ちょっと違うわね。死に憧れるか、死者に支配されるか、そのどちらかが多いかな〜。死の気配は強くとも、主人公は常に「生きる」ことを選択していく。そこが、松尾作品の好きなところです。
ちょっと脇道にそれたけれど、モチーフが過去と重複してるだけなら、別に構わないんですよ。作るものの傾向が似るのは、松尾さんに限ったことでなし。ただ、過去作品の一つ上をいくものが、自分にはつかめなかった。ゆえに「既視感」止まり。

にしても、松尾さんは親類縁者から逃げたくて、でも囚われている人なのだとしみじみ思う。昔の観ることのなかった芝居の惹句が、いまだに忘れられない。「攻めてくる。親戚一同が攻めてくる。」(たしか「COUNT DOWN」だったかな?) 親戚って面倒ですよねえと、何かで松尾さんが答えていたっけ。あと「悪霊」の会話。「おまえは親戚の少ない女やな」「おまえの親戚少なさ、すっきやで」「親戚少な美人や」……ほんっとうに面倒なんだろな。でも捨てられないのよね。「サッちゃん」を観ても、よくわかる。サッちゃんの家族の関係が、台詞や距離感から見えてくる構成がうまいよホント。
関係ないけど、劇中のセルフ・パロディ(障害者を扱った演劇うんぬん)で、小松さんが手にしていたチラシは「ファンキー!」です。なつかしい〜。単なる覚え書きメモ。

同行の知人が「本公演なのに、大人計画所属の役者が少なく、客演が多い。8人中3人が客演」と言われて気がついたけれど、確かに! 鈴木蘭々は、再演版「キレイ」以来ですな。登場しょっぱなから、不幸オーラがむんむん。最後の開き直り(反転)がやや弱く感じたが、ずっと感情を隠してきた役なので、リアルっちゃーリアル? 小松さんの二役は、ああくるとは思わなんだ! ああいうおばあちゃん、いそうですね。180度開脚に底力を見た。もう一役の、急に渋いイケメンになるところが大好きです。ウルトラマンばりの時間制限。
何より一番の収穫は、家納ジュンコさん! うまいわー。場をさらうわー。大人計画の役者かと見紛う違和感のなさ。「サモ・アリナンズ」の方だったのね。とにかくすごい。
皆川猿時さんは、トリック・スターの役割を十分に果たしている。皆川さんが何の気なしにスパスパしゃべる「現実のどうしようもないこと」は、彼の役が“身内”ではなく、係累のない“通りすがり”の人物だから言えるものだ。そういう、何も持たない彼にサッちゃんが……という展開は、二人の外見からして一瞬驚くが、実は平仄があっている。クライマックス、希望よりも諦観が勝っていたのは、作劇者の星霜ゆえでしょうか。それでも「明日(あした)」はあるのさ。