俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

1年前、何してた?

写真は1年前のヒューストン。

2009年の今日、山本耕史主演の舞台「ドリアン・グレイの肖像」を観る。夜は飲み。
1年前の今日、正確には日付ではなく「8月第4週の日曜日」、ヒューストンの劇場の、バックステージ・ツアーに参加していた。夜はステーキ。
お待たせしました。おそらく、ほとんどの方がお忘れであろう1年前の旅日記、更新です。ちょうどヒューストンへ出発した日の日記はid:orenade:20080823。新規更新はその2日目、id:orenade:20080824。冒頭の写真は、バックステージ・ツアーの案内看板です。9月前に全行程をUPしたいけれども、なるか……?

大変申し訳ありませんが、「牡丹灯籠」「ドリアン・グレイの肖像」の感想はさらに後日。牡丹灯籠は段田安則さん、ドリアン・グレイは加納幸和さんがよかったです。

山本耕史主演「ドリアン・グレイの肖像」

【作】オスカー・ワイルド
【構成・演出】鈴木勝秀
【出演】山本耕史須藤温子伊達暁米村亮太朗三上市朗加納幸和

8/23(日)14:00開演、於・世田谷パブリックシアター。上演は二幕、2時間25分 (休憩15分含む)。
ヤマコーに伊達ちん、三上艦長に加納さんか! でもオスカー・ワイルドといったら耽美でしょ、そんで演出が、大の苦手なスズカツかよ〜……てんで、観るのを迷っていた舞台。誘われたのを「これも縁だ」と思い、やって来たのですが、これが存外よかったんですよ。とにかく、加納さんに尽きますね、この舞台は。

原作は学生時代に読んだはずなんだけど、あらすじ以外、さっぱり覚えてなかったですね。観劇後、改めて読み直したところ、要所要所のセリフは同じなんだけど、けっこういろいろ違ってないコレ。オスカーの「ドリアン・グレイ」ではなく、スズカツの「わたしのドリアン・グレイ」とした方が、ぴったりくる。
そんなに回さんでも、と思うくらい、舞台転換に回し舞台を多用。回しながら、役者を歩かせる。役者たちは、地味に大変だったでしょうね。
予想とちがったのが、耽美から遠い演出だったこと。もっと華美で享楽的かと思いきや、わりあい真面目で、暗かったですね〜。山本耕史のドリアンが、思索的すぎて違和感あり。きれいなだけのアーパー兄ちゃんの部分も、もっと出したらよかったのに。前半は傲慢が勝ち、後半は繊細さが目立つ。そういう演出・解釈なんだろうけれど、山本ドリアンは、あまりに罪に自覚的ではないでしょうか。殺人も魔窟行きも「自発的」すぎる。意志の確固たる行いではなく、「突発的」な感情のなせる業、うすらぼんやりとした恐懼をして本来、彼を破滅の行為に駆り立てるのではなかろうか。原作うろ覚えの時点で、なんか違うなーと思った箇所です。原作のドリアンとはちがう、スズカツのドリアン像なんでしょうね。まさに、バジルのような崇拝をもって描かれております。
で、原作以上にいい味を出していたのが、ヘンリー卿の加納幸和さん。英国貴族の機智と韜晦、皮肉をそれはもう、いやらし〜く演じて、ダントツの出来でした。正直、こちらが主役でね? と思うくらいよかった。演出家の自己投影はドリアンではなく、むしろこちらでしょう。劇中の警句(うまいこと原作から持ってきてる)は、だいたいヘンリー卿の台詞なんだけれども、さりげなく耳に残るよう言うのね。このへんも、うまいなー。今回の舞台がよかった、と思えたのは、ヘンリー卿の演技と警句が大きいです。
バジル役の伊達ちんは……だめではないけれど、なぜ彼がこの役を振られたのか、わからん。山本ドリアンへの崇拝を告白するとき、一瞬、言いよどむのが可愛かったです。しかし、体型・しぐさが、どうにもドメスティック。山本ドリアンを諌めて神に祈る場面では、両手を組んで祈りを捧げる格好が「のうまくさんまんだー、のうまくさんまんだー」と、榊を振りかざして護摩を焚いている姿にしか見えない! これは赤毛モノの宿命ですね。山本ドリアンも、直毛銀髪のヅラが、地方の洋品店にある、埃をかぶったマネキンのヅラに見えてしかたがなかったです。あのヅラはな〜……他になかったんだろか。あと、まったく個人的な好みで申し訳ないが、山本君の筋肉のつき方がよくて元気すぎるのが、和的な美青年の範疇から滑り落ちている気がする。日本の伝統として、「絶世の美男」は、なよっとした容姿だと思うんですよ。肉体的な線の細さが必要なの。英国貴族としては、体格よすぎるくらいで正解なのでしょうけれど。
誉めているのか、けなしているのか分からない文章になったが、時々エエエーとなりつつも、いい意味で心に引っかかりができた舞台だった。原作を再読しようか、という気分になりましたもん。「糸ちゃんの天敵だよねー」と言われるくらい、ふだんは合わないスズカツ演出でこんな気持ちになるとは。ちょっと複雑。