俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

アレンジRENT

東宝版「RENT」を、有志3名で観てきた。全員、映画版&来日版(2006年公演)を観劇済み。ただ、残念なことに、日本人キャスト初演版(山本耕史がマーク役)は知らないんだよねえ。あの頃はミュージカルに興味なかったから……ヤマコーも好みじゃなかったし……もったいない!
今回の東宝版「RENT」は、日本初演版とはキャストも、訳詞も演出も一新したもの。さてどうかな、とおそるおそる行ってみたが、けっこう楽しめました。来日版より好みです。ただ一つ、「RENTを知っている人向けで、まったく初見の人への配慮に欠けている」点だけが、気になる。だいたいは良かったのに、これだけが大きな瑕。ロミジュリや信長、新選組のように、周知の話ではないのに乱暴だなあ、と思った。RENT好きだけを当て込んだように見えて、ちょっといやらしいわ。でも、キャストやスタッフたちの熱意は、それとは関係ない話。公演自体は、よいものでした。
観劇後、日比谷シャンテでお茶をしながら、RENT感想をばーっとしゃべり散らす。ついでに、他の店舗も冷やかし歩き。何の気なしに見ていると、引っかかりますねえ。はい、ストール買っちゃいました。熱に浮かされたか? 同行の人はスカート買ってた。「セール前なのに!」と言い合い、次は飲みの店へ突入。RENT感想のつづきから、なんてことない四方山話まで夜は更けゆく。

東宝ミュージカル「RENT」@シアタークリエ

【脚本、作曲】ジョナサン・ラーソン(Jonathan Larson)
【演出】エリカ・シュミット(Erica Schmidt)
【日本語訳詞】吉元由美
音楽監督】池上千嘉子
【振付】辻本知彦

【出演】
 マーク:森山未來   エンジェル:田中ロウマ  
 ロジャー:K      モーリーン:望月英莉加
 コリンズ:米倉利紀  ジョアンヌ:Shiho 
 ミミ:DEM      ベニー:白川侑二朗

【アドヴァイザー】アンソニー・ラップ (Anthony Rapp)

12/14(日)13:00、於・日比谷シアタークリエ。上演時間は【一幕】13:00〜14:20、休憩20分、【二幕】14:40〜15:40。意外と早く終わるのね。シアタークリエには、座席前方に傘立て用のひっかけゴムがあるので便利。しかし飲み物ホルダーはありません。ロビーは狭い。クロークあります。無料のロッカーは好印象。「RENT」グッズはショボめ。パンフレットは1600円です。
エンジェル、ロジャー、モーリーン、ミミの4役のみWキャスト。おおざっぱな感想は上記を読んでいただくとして、どこから書き出そうかしら。日本初演版は知らないので、来日版(2006年公演。当時の感想はid:orenade:20061123)の比較から始める。

【来日版とちがい、よかったところ】
・音響、バンドの音量。客席数2000人超の新宿厚生年金会館と、611席のシアタークリエでは比べるなと言われそうだが、東宝版RENTはギュンギュンの音量で「ロックだ!」。とても気持ちがよかった。役者も歌って踊れる者を揃えており(プロフィールを見ると、シンガーもしくはダンサーがほとんど)、まあまあ及第点ではないでしょうか。
・動きがある。来日版は役者の棒立ちが気になったが、東宝版は歌いながらしっかり踊らせていて、動こう、動かそうという意識が高かったように思う。
東宝版の微妙なところ】
・歌詞の聴きとりづらさ。声量はそれなりでも、とにかく聴きとりづらい! 何言っているかわからん箇所もちらほら。「日本語訳詞を、英語原曲にのせる」難しさゆえか。歌詞も詰めこみ気味だし。来日版は動きの少ない棒立ちの分、歌詞発音はきれいだったので、歌のために動きを犠牲にしていたのかもしれない。東宝版は「Today 4 U」「Out Tonight」なんか、役者の息が切れるぐらい、思い切りよく動いてたもんね。
・上記と関連して。英語を意識してか、巻き舌加減で歌うのやめて。若干名だけど、もともと聴きとりづらいのに、よけい分かんないんだよっ。あと、曲名がわからないのだが「雪が降ってきた」をキーワード的に歌うやつ。役者たちが異なる歌をかぶせながら、ただワンフレーズ「雪が降ってきた」だけ一致する、構成の巧みな楽曲なんだが、誰がなんと歌っているのか、さっぱり聴き取れません。ワーワーうるせー、ちゃんと聴かせろよと、この曲だけはヤサグレちゃった。
【それを言ったらおしまいよなところ】
・みんな見た目が日本人。人種のるつぼ・アメリカNYが舞台なんで、黒人白人ヒスパニックユダヤ系のはずなんですが、やっぱりどこから見ても日本人。元の話を知らないと「あの人、黒人だったの!」とびっくらこいちゃう。まあね、下手に顔塗られても「わー黒く塗ってるよ、造作は日本人のままなのにダッセー」と、むしろ笑っちゃうから、塗らんで正解ですけど。宝塚やコスチューム・プレイのミュージカルと違い、ファンタジー成分の少ない現代ものだから、ふと、気になっちゃうんでしょうね。

【その他、東宝版RENTについて思うところ】
楽隊の音量がロッカーな感じでいいし、役者たちは一生懸命だし、動いて躍動感を出そうとしている点に好感を持った。ただ1点、どうしても気になるのが「RENTを観たことのある人向け」の舞台だったこと。全体的にテンポよく、演出もオリジナル版から思いきって離れたつくりなのは面白かったが、その分、犠牲になった箇所が痛い。
・テンポがよくなった → 余韻がない。浸る間もなく次のシーン、次のシーンで「こなしている感じ」がちょっとした。
・新しい演出 → 面白いが、公演時間を短くするためなのか、説明不足のシーンが多々あり。たとえばエンジェル昇天など、あれ、映画や舞台で予備知識ないと、あとあとまで分からないと思う。初見の人には不親切。「一度観た人向け」と言う所以。

シーンをうまくまとめており、短くした分の工夫もあるが、オリジナル版を下敷きにしたアレンジ、「アレンジRENT」という気がする。「RENT」が忠臣蔵やロミジュリくらい、人口に膾炙した話なら気にならないのだけど、もう少し初見の人に優しくてもいいのではないかしら。
ブロードウェイ版も今年、12年のロングランに幕を閉じて、一区切りついた。時代に即して演出や解釈は変わっていくべきだし、そうでないと、やる意味もないが、やはりストーリーは初見でわかるのがいいと思う。今は過渡期、なんだろう。古きよきオリジナル版のファンに配慮してか、「アドヴァイザー」に初演マークを演じたアンソニー・ラップを持ってきたのが象徴的だ。

なんだかんだ書いたが、今回の東宝版はわりかし気に入っている。訳詞担当は、作詞家の吉元由美さん。さすが本職だけあって、英語フレーズの入れ方がうまい。キャストに不安を抱いていたが、思いのほか大丈夫だった。って、えらそうでごめんなさい。
マ−ク役の森山未來は、さすがですね〜。個人的には、マークの服装はもっとダサいほうが好き。今はユニクロ的かっこよさだが、もう一歩進んで、田舎のスーパー2階の吊るし(もしくはワゴン均一セール)まで、いってほしい。たとえコム・デ・ギャルソンでも、ファッションセンターしまむらに見えるセンスのなさがマーク・クオリティのはず……! はい、全部わたし個人の勝手な思い入れです。
未來くんに話を戻すと、ときどき新感線の動きになっているのに笑った。「あの動き、五右衛門ロックですよねー!」と、終演後のお茶・飲みで盛り上がったよ。
ロジャー役のK(Wキャスト)は、一番歌詞が聴きとりやすかった。滑舌に気をつかった歌い方、台詞はよい。
エンジェル役の田中ロウマ(Wキャスト)は、評価が分かれるところ。自分は、彼のエンジェルは、ゲイではあってもドラァグ・クイーンには見えなかったからNG。オカマ役には超きびしいです。一緒に観劇した3人のうち、2人はNG派で、もう一人はOK派。「オカマに見えない意外性が面白い」とのこと。もう、好みの問題ですね。
ジョアンヌ役のShihoは、ゴスペルを意識したとおぼしき歌い方。これも好みの分かれるところ。自分は「どうせ日本人なんだから、無理してそっちっぽく歌わんでいい」派。それよか、歌詞をはっきり発音してくれるとありがたい。
今回の拾いものは、ベニー役の白川侑二朗とコリンズ役の米倉利紀。ベニーはもともと好きな役柄だけど、白川ベニーは、ベニーのこすっからさがちゃんと出ていて、よい。ベニーの二面性が、より分かります。白川さんは元力士にして、戦隊もの出身の役者さん。経歴もユニークですね。
そしてそして、コリンズ役の米倉利紀! このコリンズ最強。米倉さん面白すぎるー。米倉さんは演者の中でも年長で、ただ一人90年代の香り(「かほり」と言いたい)を、濃厚にまとっている方です。ミュージシャン特有の気取ったフリ、スポットライトが当たってなくても俺が一番さ、と思ってそうな自信に満ちあふれたしぐさ。さすが90年代初頭デビュー! 今の自然体あーちすとなんか、目じゃないね。コリンズの役柄はゲイだが、米倉コリンズは「男でも女でも、俺に惚れたヤツはどんと来い!」という色気を垂れ流しております。んで、当たり前だが、歌、うまっ! 低音しぶっ!
終演後、米倉コリンズの素晴らしさを力説したのだけど、同行2名は「確かによかったけど、そこまでそんな風だった……?」と、若干引き気味。単に、自分のツボにハマッただけかもしれないけれど、とにかく米倉コリンズは一見の価値ありですよ。タッパがあって、実際かっこいいです。いやー、次も続投していただきたいですね。