俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

初サモアリ

サモアリ・大入袋

サモ・アリナンズの芝居を観てきた。土日のチケットがとれなくて、ひっさびさの平日観劇。平日のチケットは、会社勤めの心臓には悪いよね……。案の定、下北沢の駅を出てから劇場まで走りっぱなし。ギリッギリでセーフ。ふー。
昨年、客演で見かけた座長の小松さんにときめいて以来、一度観てみたかったサモ・アリナンズ。しかも作・演出は松尾スズキ。さらに、今回でしばしの休団。そりゃあ平日でもチケとるよよ!
で、肝心の舞台。これが面白い! 前々から気になっていた方には、当日券でもいいから観に行くことをおすすめします。並ぶ価値あり。役者さんたちも、すごく楽しそうだったよ。
役者さんたちが皆、うまいんですねえ。松尾スズキさんの脚本も、昔に返ったかのような仕上がり。スズナリに合ってた。松尾さんの言葉遣いや演出って、色が濃いのね。ふだんのサモアリを知らないので、今回の舞台が通常とどう違うのか、分からないのがくやしい。思った以上に筋立てがしっかりした「芝居」でした。

サモ・アリナンズ プロデュースNo.25「洞海湾 -九州任侠外伝-」

【作・演出】松尾スズキ
【共同脚本】竹沢宏
【出演】
コンドウ/小松和重  ノグチ/高木尚三  ジュンコ/家納ジュンコ  カツオ/佐藤貴史  カニゾウ/大政知己 マエダ/中澤 功  エマ/月野木歩美(島村朋子改め)
S・W/平田敦子  カスミ/宮沢沙恵子(大人計画所属)  アキトシ/オクイシュージ  カネダ/久ヶ沢徹

4月9日(水)19:00開演、下北沢ザ・スズナリ。上演時間は2時間。
サモアリです。座長の小松和重さんと、作・演出の松尾スズキさんに惹かれて観に来たら、大当たり! の舞台。面白くて楽しくて、最後は胸がキュッとしますね。
サモアリというと、隈取りみたいなメイクが思い浮かぶけれども、役者陣は素顔。小松さんとオクイさんだけ、ちょっと眉を描いているが、通常の舞台メイクの範囲です。要するに普通。中身も「物語」でみっちりしている。笑いと物語のバランスが非常にいいですね。また、松尾さんは舞台上で多人数を動かすのが上手。カットの人物配置がきれいなんです。

独特のセリフ回しや演出は、見ているだけで「あ、松尾さん」とわかるもの。畳みかける台詞群、突然全力でバーン! と物を叩きつける。歌う。踊る。松尾さんだなあ。冒頭の差別ネタは、サービス(?)なんでしょうか。あれはちょっと無理があるのでは……「戦闘竜」の立場は*1。でもほんとだったらコワイな。
この舞台の主役は、「洞海湾」という九州の田舎だ。人間ではなく、田舎の寂れた町のどん詰り感がメインというあたり、宮藤官九郎さんの「熊沢パンキース」を思い出す (観たのは2003年の再演版)。馴染みの酒場というのも一緒。
しかし、同じ田舎の暗黒部を描いていても、やはりクドカンの方が若いからして、状況に対する怒りや鬱屈がストレートに出てんのね。そのぶん、どこかに突破口のありそうな希望がある。それが脚本・出演者ともに一回りちかく上の「洞海湾」では、静かな諦念が支配してるのよ。そんな青い時代は過ぎました、という感じで。この町を出るとか嫌いとか、愚痴る段階は終わっているわけです。大きくなって社会人になり、小中高からのスクール・カースト順位が、いい年をした社会人になってもそのまま続いている世界。東京に行った若者を素直に応援し、守る姿は、自分ができなかった夢を託しているようにも見える。これを、サモアリの役者さんたちが明るくさらりと演じているだけ、笑ったあとにしんみりきます。

小松さん以外は、ほとんどお初の役者陣。みなさん、肩の力が抜けて非常に上手い。さすがです。自分より年上の役者さんたちが、軽々ときれいに動いている。体力年齢、絶対私のほうが下だわ……。
カスミ役の宮沢沙恵子さんは、大人計画団員ではなさそうだけれど、大人計画所属(ややこしい)の役者さん。しゃべり方が、ちょっと紙ちゃんに似てた。

物語最後の、夢か現かというのも好き。ふつうに考えて現実はアレなんだろうけれども、救いを残すあたり、松尾さんの優しさを感じるわ。小松さん演じるコンちゃんのラスト・シーンは、最後まで夢に逃げ続けたということなのだろうか。それとも……と、いろいろ考えてしまった。
副題の「九州任侠外伝」、もしかして、いにしえの東映任侠映画を意識したのかしら。この類は観たことないので憶測だけど。日本刀も出てきたよ。とにかく、Vシネマのノリではないと言える。昭和の香りのする舞台だった。
ところで、冒頭の写真は、帰りに配られた「洞海湾」の大入袋。かわいい!

*1:http://sumo.goo.ne.jp/ozumo_meikan/rikishi_joho/rikishi.php?A=1004セントルイス出身の黒人系力士。黒人と日本人とのハーフとのこと。力士の四股名って、時々おそろしく安直ですよね。リンク先画像、「こち亀両さんの回しにもご注目。