俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

以蔵の話

12:30から新感線「IZO」。終演後に10分だけお茶をしてから趣味の講座へ。移動の電車内では講座の復習してたし、休み時間のない1日だった。趣味の講座が終わったあと、スタバでゆっくり茶を飲んで、ようやく人心地がついた気分。

新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號「IZO

【脚本】青木豪
【演出】いのうえひでのり
【出演】
森田剛戸田恵梨香 田辺誠一千葉哲也 粟根まこと 池田鉄洋 山内圭哉
逆木圭一郎 右近健一 河野まさと インディ高橋 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ/
村木仁 川原正嗣 前田悟/ほか
木場勝己西岡徳馬

1/19(土)12:30開演、於・青山劇場。上演時間は、休憩込みで3時間半。第一幕12:30〜14:00/休憩25分/第二幕14:25〜16:00。
新感線とV6の森田剛が組み、その名も「號」という公演。モリゴーが演じるのは、幕末の「人斬り以蔵」こと、岡田以蔵です。

森田剛は初めて観たけど、小っちゃ! でも動きはさすが。彼の持ち味のワイルドさが、役によく合っていたと思う。今回、脚本がしっかりしていて、細やかな心情も要求されるが、そのへんも応えていた。カンがいいんだろうね。
戸田恵梨香も、うまくてびっくり。今までTVの恵梨香ちゃんに目がとまらなかったのが、申し訳ないくらい。かわいいし、抑制した演技もできるし、認識を改めたわ。これからは沢尻エリカより戸田恵梨香ですよ、皆さん!
木場勝己さんも、さすがのうまさで場を〆る。そして一番の驚きは、池田鉄洋さん! まさかあの役だとは。いのうえさんが池田さんをどう料理するか、楽しみだったけれど、違和感ないわー。非常に楽しそうに、のびのびと演じてました。
ところで千葉哲也さん。初めて観たが、好きだわ。地味に目をひく人だ。そんで、端役ではあったが、よかったのが保坂エマちゃん。いつもこの程度の役で、ちょっともったいないよね。彼女は新感線を出たほうが、飛躍できるんじゃないかしら。中谷さとみちゃんは、芝居の「間」が自分と合わないので苦手なんだよなあ……。とは言え、今回の役者陣はうまくハマっていた。やな人いなくてよかった。

さて、上記にも書いたけれど、脚本がしっかり・かっちりしていた。脚本は、劇団「グリング」の青木豪という方。史実にかなり忠実だが無理のない筋運びで、さらに人物たちの内面を浮き彫りにしていく手腕はお見事。しかし暗いわー。ネタが以蔵だから仕方ないけど。終演後の気持ちが、山本周五郎「花も刀も」*1の読後感にそっくりだった。
史実もそのようだけれど、以蔵はなんで、あんなに武市半平太にしがみついたんだろう。以蔵を飼いきれなかった武市も、そこまでの男だよねえ。あと、富子の着物がせつない。
脚本がしっかりしすぎているのか、演出よりも内容で引っ張られた舞台だった。いのうえ臭が少ない。ある意味、ふつうの舞台に近い。最後のBGMの歌は、新感線らしさを出そうとしたのかもしれないけれど、今回は色違い。ない方がよろし。
と言っても、場面転換のつなぎのうまさ、テンポのよさは、やはりいのうえさんだ。殺陣では、本間精一郎vs以蔵・新兵衛の絵づくり、後半*2の回り舞台で狭い小路の斬り合いを見せるところが好き。黒澤ばりの血飛沫、残酷表現は、血塗られた「天誅」の是非を問うたものか。けっこう私利私欲だもんね。
終盤・クライマックスでの以蔵の台詞が、非常に日本的な思考だと思った。その通りとは思うけれど、一歩間違えると「バスに乗り遅れるな」で、思考停止になる恐れがあるから怖いよ。それとはまったく関係ないけど、通行人に虚無僧出すのやめてー。虚無僧が出るたびに、「はっ! 今までの新感線の流れから、この虚無僧は幕府か勤王派の隠密で、あとでもっかい出てきて、笠をちょいと上げて顔を見せて『ああっ、お前は!…ぐわっ!(斬られる)』という展開に!」と、いちいち気になって舞台に集中できません。もちろんそういうことはなし。ちっ。

*1:山本周五郎「花も刀も」。平手幹太郎は努力家で真面目な青年だが、その真面目さが空回りし、結果的に彼を悪い方に追い込んでいく。剣に生きる彼を、千葉周作が「もう刀は終わりだよ」と言うあたり、あんたは龍馬か勝海舟か。物語のラストは、ぽちっと救いがあるが、平手幹太郎=のちの平手造酒なので、以蔵と同じく、書かれていないその先が知れている。個人的にやるせない作品。
参考:平手造酒=千葉周作の門人で剣客。酒で身を持ち崩して破門をくらう。流れ流れて博徒の用心棒になり、最後には斬死。昔の浪曲・講談「天保水滸伝」中の人物。

*2:【2008年2月2日追記】後半ではなく、前半・本間精一郎のシーンでした。