俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

ゴシックだった

3連休初日は、海老蔵だ!

シアターコクーン「ドラクル 〜GOD FEARING DRACUL」

【作・演出】長塚圭史
【出演】市川海老蔵 宮沢りえ 永作博美 渡辺哲 山崎一 手塚とおる 山本亨 市川しんぺー 明星真由美 中山祐一朗 勝村政信

9/15 (土) 14:00開演、於・渋谷シアターコクーン。一幕14:00〜15:25/休憩20分/二幕15:45〜17:10。休憩込みでも3時間10分て、なげーよ。
海老蔵が初めて小劇場系、それも圭史とやるというので、チケ取りしてみた。でもよく考えたら、自分、海老蔵まったく興味ないんだよねえ。大河「武蔵」も最初の1回で捨ててたし。くよくよしていたら、会社の人が「どんな話なの?」「ゴシックホラーで、神を信じた悪魔と、悪魔を愛した女のコイバナみたいっすよ」「えーそれ、少女漫画じゃん」「そうか!」
少女漫画説、卓見。観る前からもう、そんな気がしてきた。少女漫画なら、どんな恥ずかしい台詞が飛び出してもOK。吸血鬼ものだし、マントバッサーもありよね (わくわく)。ラスト、天井から光とともに、天使の羽根が舞い降りてきたらどうしよう (おろおろ)。
結論からいうと、マントバッサーはあった (ありがとう)。さすがに天使の羽根はなかったです。

観て、いの一番に思ったこと。「海老蔵、かこええーーー!」
目を奪われた。きれいだあ。今まで、ほんとにまったく興味なかったのに釘付けです。主役オーラがすごいわ。相手役の宮沢りえも、これまた可憐で、美男美女のカップルですよ。りえちゃん、うまい役者さんになったのねえ。
18世紀のフランスが舞台なので、服装は、フランス革命以前を想像してください。白黒のシンプルな衣装に、ハラリ髪の海老蔵さんが(すでに敬称)うるわしい。演技や台詞まわしは、思ったよりふつうだった。でもごめんなさい、長広舌のシーンは……棒読みと、語尾の尻上がりが「熱中時代」の水谷豊*1みたいで、笑いをこらえるのに必死でした。本人のクセなのか、演出なのか、どっちなんだ!

内容的には「長い」の一言。第一幕はまだしも、二幕のグダグダは、もっとカットできたでしょ。
夜の種族をクローズアップし、ドラクルの苦悩をたっぷり描いた第一幕は個人的に好き。二幕は、急に安くなっちゃって、まあ。このグダっぷり、「桜飛沫」の第二幕*2みたい。「桜飛沫」は一幕の評判がよくて、二幕のほうが好きな自分は肩身がせまかったんだけども、今回はちょっとなー。言いたいことがありすぎて、かえって拡散しちゃったんじゃないの?
二幕冒頭で、夜のパワー全開の海老蔵さんが、全身黒で決めてマントバッサー。笑いたいんだけど、海老蔵さんがかっこよすぎて笑えません。山崎一演じるブランシェとの、一連のやりとりがいい。勝村政信永作博美が「アダム」と「エヴァ」なのに、圭史の直球を感じた。この場合、手塚とおるの司教様が「蛇」なのかしらん。
ときどき、圭史は直球勝負のクセがある。まとまらなくとも、ド真ん中で投げちゃう。今回の二幕が、そんな感じ。それでも持ったのは、役者陣のよさ、舞台全体の美しさ、弦楽カルテットの生演奏、雰囲気勝ちでしょう。たぶん、二幕でやりたかったのはギリシャ悲劇、なんだと思う。

脇を締めていた役者陣について。中山祐一朗さんは、声だけでわかるユニークさ。相変わらずうまい人です。山本亨さんのジョージが、かっこよすぎ。一幕は亨さんや、医者役の渡辺哲さんが素敵だった。二幕は、勝村・永作の二人が、損な役回りながら好演。永作さんは、ちょっと作りすぎの気もしたが、フニャフニャできない役だし、しかたがないか。どこまでも優柔不断な勝村さんが新鮮。

以下は、元ネタについて。
作中、「ジャンヌ・ダルク」の名が出てきたのと、海老蔵のドラクルの名が「ジョルシュレイ」と聞こえたので、ネットで検索かけてみた。自分の聞き違いだったのか、元ネタの人物は「ジル・ド・レイ (Wikipedia)」らしい。第一幕の「子供が云々」は、涜神行為(幼児磔刑とか)の一環だと思っていたけれど、元ネタの人がそういう趣味だったのか〜。知らなんだ。とりあえず、澁澤龍彦から読んでみようかな。

【2007.9.19追記】
「ドラクル」戯曲が掲載された、「文學界」10月号を読んだ。登場人物の配役まで書かれた親切設計。「ジョルシュレイ」は思いっきり聞き違いで、台本にもしっかり「ジル・ド・レイ」とあった。恥ずかしい……。
山本亨さん演じる「ジョン・ジョージ」の典拠を発見。“ロンドンの吸血鬼”“20世紀の吸血鬼”と呼ばれた、ジョン・ジョージ・ヘイから、名前を引っ張ってきたもよう。金銭目的で9人もの殺人を犯すが、その際にコップ1杯の血を飲んだと告白。昔から血を飲む幻想にとりつかれていたと言うが、精神異常を装って減刑を狙ったものなのか、実際に飲んだのか嘘なのかは不明。ジョン・ジョージ・ヘイについては、仁賀克雄著『ドラキュラ誕生』(講談社現代新書) に拠りました。

*1:TVドラマ「熱中時代」教師編。水谷豊の「先生なぁ、ナントカなんだぁ〜?」みたいな、独特の台詞回しが印象的なドラマ。

*2:「桜飛沫」…長塚圭史のユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」2006年公演。