俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

いくつになっても女は……。

昨夜半より雪がやんで、晴れ。歩道は、でこぼこの雪がカチカチでつるつるすべる。積もっていたぶん、しばらく凍結道路のままだろうなあ。移動に時間のかかること。
昨日は趣味の講座以外、ずーっと寝てて掃除もしなかったので、風邪もだいぶんよくなった。今回は鼻と咽喉にきたの。声はまだハスキーだけれど、ハナは出なくなったので、今日の観劇も安心だね。摂生の甲斐あり。掃除洗濯をし、ぱりっと風を部屋に入れて (換気は大切)、銀座へ。ミュージカル「グランドホテル」です。

ミュージカル「グランドホテル」

演出 グレン・ウォルフォード/翻訳・演出補 菅野こうめい/振付 川崎悦子
エリザベータ・グルーシンスカヤ:前田美波里
ガイゲルン男爵:岡幸二郎
フレムシェン:紫吹淳
ラファエラ:諏訪マリー
エリック:パク・トンハ
オッテルンシュラーグ:藤木孝
ヘルマン・ブライジング:田中健
オットー・クリンゲライン:小堺一機 ほか

1/22 (日)、17:30開演、於・国際フォーラム ホールC。休憩なしの上演2時間。男爵の役は、岡幸二郎大澄賢也のWキャスト。(実業家ブライジングも、田中健岡田真澄とのWキャストの予定だったが、食道がん手術をした岡田真澄の大事をとった降板で、田中健が全公演通しとなった)

非常に満足、の舞台でした。下手な人のいない心地よさ、背筋ののびた役者たち、華やかで過不足のないセット。音楽も好み。映画も未見で、あらすじも大部分忘れた状態で行ったのだけれど、いい意味で驚きの連続でした。
まず、舞台がベルリン。渋っ。パリかNYかと思ってた。
時代設定は世界恐慌の翌年、1928年。頽廃と不安、貧富の差を見せ、今と通じる内容。株主につきあげられる社長、同性愛のほのめかし、ユダヤ人差別、親子ほどに年の離れた愛。かなりはっきりと描かれていて、当時はけっこうセンセーショナルだったのでは?

男爵の岡幸二郎さんは、その役柄通りに「伊達男」だった。とにかく映えるのよ〜。もっと崩れた役かと思っていたら、意外に純粋。現実を見据えるのは気重だけれど、堕ちきれるほどのワルでもなく、すべてを諦めるには、まだ若さが残っている。そんな、ちょっとだらしないけれど憎めない、愛すべき男爵でした。でもまさか、本気でグルーシンスカヤ@前田美波里と恋に落ちるなんて! あの口説きは、単なる言い逃れじゃなかったのね〜。かわいい年下男の愛に、すっかりやる気を取り戻したグルーシンスカヤに、「女はいくつになっても、恋が必要なのね……」としみじみ。
グルーシンスカヤと男爵との愛は、互いに希望を見出す構造みたいだ。グルーシンスカヤは年下男からの敬慕と賛辞に、老いた自分に対する不安を払拭する。まだ若くとも、そろそろトウの立ち始めた男爵(己れの年齢を「29歳と29か月」というウイットには、20代が終わってしまった畏れがありはしないか)は、人生の先輩たる年上バレリーナの顔に、過去の確かな実績を読みとり、将来に対する不安をやわらげる。「二人でここを発ち、ウィーンへ!」ウィーンにあるのは“明日”なのだ。

物語の大きな軸は生死だが、小軸として先にあげた年齢、そしてお金がある。
超一流ホテルに集う客と、そこの下働きの従業員との格差。一見、派手で軽そうな若い女タイピスト、フレムシェンの述懐――「お金。だってお金は必要だわ。どうやって食べていったらいいの? 流行遅れの服はもういやなの」。自分は「NANA」のハチを思い出しましたよ。ハチが、怠慢でバイト先をクビになったときのモノローグね。「お金がなければ、のどが渇いたら120円の缶コーヒーを買えばいい。でも、おしゃれなカフェに行きたい。かわいい洋服も着たいし、すてきな雑貨も欲しい。お金のかかることばかり好きだ。どうして我慢できないんだろう」……たしかこういうの。なんか似てるよね。

若手フロントマンと、太っちょ上司の関係にも注目。太っちょ上司が、何かと若手君に冷たくあたるのに含みを感じてたんだけど、やっぱり! 「思し召し」があったのね〜。
若手君には難産に苦しむ妻がいる。病院から戻った若手君の無精ヒゲに、ひとしきり嫌みを言った太っちょ上司は一転、優しげな声で誘う。「私の部屋にヒゲ剃りがあるから、それを使うといい」
わたくしの腐女子アンテナが、ぴこーんと立ちましたよ!
若手君が「スタッフルームのロッカーにも、ヒゲ剃りはありますから」と断ると、太っちょ上司は「ふむ。……見どころのある奴と思っていたが」「わかっているのかね、残念だよ」と、あからさまに不満。これは、パワハラ&セクハラではありませんか。いやーどきどきしました。
若手君と太っちょ上司の男男関係は暗示的だったけれども、バレリーナのグルーシンスカヤとその付き人・ラファエラの女女関係は、はっきりセリフに出ていて、こちらにもおどろいた。面白いのは、男男関係は肉体を示唆しているのに比べ、女女関係は精神的なのね。グルーシンスカヤに商品価値がなくなり、頼るのが自分だけになる日を夢見て、10年20年来、小金を貯め続けてきたラファエラの「しんねり」度はすごい。かといって、グルーシンスカヤの男性関係はあまり気にしてないようだ。肉体的にではなく、精神的につながりたい感じ。

藤木孝さん演じる、義足の医師は、人間というより幽霊じみた役だった。