俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

来日公演「RENT」を観た

勤労感謝の日。昼から新宿厚生年金会館で「RENT」観劇。
今夏公開の映画版を観て以来、とっても楽しみにしていた公演だったが、期待の方が大きかったようだ。キャストは大事だと実感。音響しょぼい。楽曲はいいです。残念ながら辛口ですが、詳しい感想は下記。また長文……。

ブロードウェイミュージカル「RENT」JAPAN TOUR 2006

【脚本、作曲】ジョナサン・ラーソン(Jonathan Larson)
【演出】エイミー・ヘンズベリー(Amy Hensberry)
【出演】マーク:Jed Resnick/ロジャー:Gavin Reign/エンジェル:Joel Bermudez/ミミ:Arianda Fernandez/コリンズ:Scottie MxLaughlin/モーリーン:Shea Hess/ジョアンヌ:Andrea Dora Smith/ベニー:Terrene Clowe/他

11/23 (木・祝)、13:00開演、於・新宿厚生年金会館。上演時間は2時間30分 (休憩15分を含む)。
来日公演ということで、本場のスピリットを堪能できることを楽しみにしていたが、正直しっくりこなかった。
まず、音響がしょぼい。ロック・ミュージカルなのに、生バンドの音量が小さくて迫力なし。私は気づかなかったが、同行者によるとキャストのマイクがハウリングした箇所もあったらしい。
舞台の両脇に縦書きの電光字幕が出るが、相当、内容を端折っている。字幕の出るタイミングもずれがちだったし、もう少しどうにかならないのかしらん。他の来日舞台も、こんなもの?
エンジェル役、高音が出ず。ハモリがいまいち。全体的に、エンジェルは固かった気がする。ミミの歌い方が、パワーだけで押す感じが気になった。可愛らしさもほしい。がなるような「Out Tonight」は、大好きな歌なだけに聴きづらかった。コリンズ役は、もうちょっと痩せてくれると嬉しい。歌はまあよかったんだけど、棒立ちでダラリと垂れた手がだらしなくて (我ながら細かいと思います、すみません)、見よいものではなかった。あのう、やっぱり「見せる」ことも大切だと思うのよ、舞台に立つ以上は。
何よりも一番だめだと思ったのは、この舞台から心情が伝わってこないことだった。初演から10年、伝説の舞台と言われ上演されつづけるうちに、この作品を取り巻く環境が変わってきたのだろう。「Play」ではなく「Show」なのだ。
自分は観劇の際、歌の上手下手よりも、演じ手の心を重要視する。たとえキーが外れていても、演じ手の役柄が心に響けばそれでいいのだ。反対に、どんなにうまくても、それだけなら用はない。今回の「RENT」キャストは、観客の側を向いていなかった。見ているのは自分たちで、ナンバーを歌いあげるだけ。「RENT」は“No Day but Today”に象徴されるような、メッセージ性の強い作品だと思うが、そうした精神が歌から伝わってこなかったのが残念だった。唯一、外に向かって開いており、何かを伝えようとしていたのは、マーク役の Jed Resnick。歌も見せ方もがんばっていて、彼の存在に救われた。

映画版を先に観たため、つい比較してしまうが、今回の舞台よりも映画の方が好き。ファースト・インパクトと、字幕の情報量の多さをさっぴいても、映画版の方がジョナサンの「RENT」をわかっているように思う。
映画版が、初演時のオリジナル・キャストを採用したのも、今なら頷ける。映画を観た当初は、そこまでオリジナル・キャストにこだわらなくてもと思ったが、物語と役柄の理解で、彼ら以上の者がいなかったのだろう。超える者が出ないのは、今後の作品上演において不幸といっていい。そこで大切なのが演出ですよ。以前の日本版と来日版を観た同行者の一人によると、ちょっと演出が変わったらしい。

・モーリーンのライブ・パフォーマンス:舞台上で完結→以前は客いじりで、客にも「Moo!」と言わせるよう煽っていた
・エンジェルの死:ピンクの照明で、性的昂まりを示す→白いシーツに映る影法師の踊りで、幻想的に
・ラストに流れる映像:キャスト(?)たちの街角映像→マークが観客やキャストに回していたカメラ映像(ちとうろ覚えです)

時代の変化に合わせようと、演出も四苦八苦してるみたいね。個人的には、映画版でも「Moo!」のあたりはツラかったので、今回さくっと終了したのはありがたいわ〜。でも、わざわざ字幕で「カウベルも用意できた」とあったのに、まったくカウベルが出てこなかったのは手抜きでは。ここも直そう。エンジェルの死で、生・性・死をイコールで結ぶのは面白かったので、もう少しこなれるといいね。ラスト映像は、映像が短くてしょぼい。もっと考えて作ってほしい。
こうしてみると、以前の「RENT」は客との一体感を求めていたように思える。なんだか、つかこうへい「熱海殺人事件」を思い出すなあ。「熱海〜」は最後、役者が舞台に降りて観客にキスするのだけど、70年代の上演当初の頃は、舞台内容と観客の意識が近くて、キスされても皆あたたかく受け入れていた、という記事を読んだことがある。自分は90年代に阿部寛の「モンテカルロ・イリュージョン」版を観たが、最後のキスに観客ドン引きしてたよ。それくらい、時代性はあなどれない。やっぱり演出って大事。21世紀の「RENT」ができるといいと思う。

最後になんですが、舞台を観てよかったこと。みんな若かった。楽曲を生で聴けた。ロジャーがミミに踏み切れないのが、愛を再び失う恐れからだと、より理解しやすくなった。ベニー、映画よりもさらにいい人。ベニーは彼なりに、最短距離で夢をかなえようとしてるのよー。裏切り者と罵られても、ちゃんと元の仲間を助けてるじゃん。ベニーとマークたちの関係って、親と子みたいね。

【追記】あとでネット確認したら、今回流れたラスト映像は、作者のジョナサン・ラーソンらしいです。わかんなかったー。恥ずかしーい。んーでも、リスペクトはわかりますが、全員がジョナサンの顔を分かっているわけではないだろうから、入れ方をもちっと考えた方が、やっぱりいいと思うです。
あと、天井から下がっていた「ぼんぼり」は、けっこう前の舞台からあるらしいです。月なのか照明なのかは不明。80〜90年代のアメリカの、日本流行りの名残かしら。それとも、日本公演だけの舞台美術なのかしらん。