俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

芝居芝居強化月間・第6弾「キレイ〜神様と待ち合わせした女」

夕方、修理に出していた会社PCが退院、設置作業。消えたと思っていたファイルが復活してる! やたー。しかし変換辞書類はソフトごと消滅してたので、再インストールせねば。ロジックボードの部品が一カ所、壊れていたとのこと。
夜は譲っていただいたチケットで、松尾スズキさんの舞台「キレイ」。無理にでも観に行って、よかった! 好再演ですね。美しい物語です。キレイです。ほんとうに、美しい話です……。

シアターコクーン大人計画キレイ 神様と待ち合わせした女

7/29 (金)、於・シアターコクーン。第1部19:00〜20:40、休憩15分、第2部20:55〜22:35。

作・演出:松尾スズキ
音楽:伊藤ヨタロウ
美術:高野華生瑠

ケガレ:鈴木蘭々
ミサ:高岡早紀
ハリコナA:阿部サダヲ    カネコキネコ:片桐はいり
ダイズ丸:橋本じゅん    マジシャン:宮藤官九郎
ジュッテン:大浦龍宇一   カネコジョージ:松尾スズキ
ダイダイカスミ:秋山菜津子 ハリコナB:岡本健一
伊藤ヨタロウ、池津祥子、伊勢志摩、顔田顔彦宍戸美和公宮崎吐夢猫背椿皆川猿時村杉蝉之介荒川良々井口昇少路勇介康本雅子、花井京乃助、他

2階A席での観劇。舞台が遠くて表情までは読めないが、舞台全体はよく見えた。ネットや新聞の劇評でよく目にした評判に、おおむね納得。初演の印象が強く、思い入れがあるだけに、キャスト変えや新演出が不安だったのだが、いい再演だったと思われる。しかし、怖ろしき初演の呪縛よ! 初演の記憶と今現在との再演が、二重写しのように目の奥で重なるのです。初演は生が1回、ビデオで1回、DVDで1回、舞台CDは数限りなく聴いてるのだけど、もう、おっそろしく覚えているのね、台詞や進行、歌の具合を。今現在の舞台に感動している一方で、演出や演技の変わりようをチェックし、じゃまなくらい初演との比較をしている。
できればもう一度、再演の舞台を観たかった。その方が初演にとらわれず、もっと再演キャスト・演出での舞台にひたれたと思います。

以上の事情をふまえての感想。
舞台美術、初演が逆柱いみりの書割に対し、再演は高野華生瑠の有機的なセット。衣裳やメイクも、初演の方がより漫画チックで寓話性がある。つまり、再演の方がリアル世界に近い。
再演では、より分かりやすくするために、シーンをかいつまんで整理、短縮している。また、演出も分かりやすさを狙い、かなり手が加えられた。コロスの白服の少女たちは新演出だが、これはかなり好き。かわいいねえ、きれいだねえ。2部の冒頭、白いリボンを天蓋ベッドのように垂らし、天使のように、眠るミサを見守る白服の少女たちは、美しい幕開けでした。初演では、カミが一人、天上のブランコからミサを見守っています。
歌も、ちょこちょこアレンジを変えていた。大きく変わったのは「ダイズ兵のテーマ」「ヘビーメンスシスターズ!のテーマ」。ダイズ兵は荘重に、ヘビーメンスは哀しみをより出して。初演の歌い方に慣れているせいか、歌詞が反対に聴き取りづらくなったような……。どうなんでしょう。歌といえば、初演より下手になってません? 皆さん歌の8割方、出だしのキーをとちっているのは、ちょっと……。たとえば、松尾さんの「スリーピー小松大魔術団」も、出だしがあやふやでした。初演とキーが変わったのかしら。
なくなって残念な演出をいくつか。
一、ケガレとハリコナAの、2階(橋)でのダンス短縮。このシーンは、個人的に一、二を争う名場面なので本当に残念。1階で大人のミサとハリコナBが噛みあわない会話をする間、ずっと2階で、子供のケガレとハリコナAが寄り添い、静かにダンスをする――せつなく美しい絵なんです。
一、1部の最後、ミサとケガレのかけあい。全員での歌に変更されていて、その変更自体はパンフを読んで松尾さんの意図がわかったが、初演のかけあいもよかっただけに心残り。
その他、全体的に展開を早くしているので、そのぶん台詞や動作を急いでいるようだった。もっとためてもいいのに、と思うシーンもあったので、そこも残念。

新キャストの印象。
ケガレ役の鈴木蘭々は、酒井若菜の代役ながら、よくやっていました。舞台になじんでたし、特に悪いところはなし。ただ、そういう演出なのか、蘭々ちゃんの資質なのか、初演の奥菜恵にくらべると、もうちょっと繊細なケガレ。過去に触れるのが本当にいやそうで、おびえが伝わってきた。図太さのある奥菜ケガレに対して、蘭々ケガレは必死さがあるんだよね。最後の、地下室での邂逅でも、奥菜ケガレは、ミサを母のように包み込むけれど、蘭々ケガレは、ちょっと恨みがましい感じがします。でも、それが徐々に「やり直しましょう」という頃には、柔らかくなっているんだよね。やっぱり松尾さんの演出かしら。
ミサ役の高岡早紀は、よかった! 正直、再演では、ケガレよりミサが目立ってました。ミサ視点で眺めることが多かったもの。初演が奥菜ケガレの物語なら、再演は高岡ミサかもしれない。ちなみに、初演は南果歩
ハリコナB役の岡本健一には、びっくり! 元「男闘呼組」という以外、予備知識のなかった人ですが、いい役者さんじゃないですか! いやー、おかま役をきちんとやれるだけで、個人的に評価は高いです。初演の篠井英介さんも大好きだけど、それとは違う造型をしてくれたので、どちらのハリコナBも好き。
岡本さんは、かなり自由に演じていて、ちゃんと役を自分のものにしているのがえらい。篠井ハリコナよりも、ゲイらしさを出し、若い分(?)もう少し攻撃的です。篠井ハリコナが、仕事と恋愛は分けて、よそに遊びに行きそうなのに対し、岡本ハリコナは、部下の男子で気に入ったのには、片っ端から手をつけてそうな感じ。

一方、ジュッテン役の大浦龍宇一。彼はどうしてこの舞台に出ることになったのでしょうか。一生懸命なだけでは、だめなんですよ。盲目の役で、稽古では実際に目をつぶって演技していたそうだけど、それが何? 舞台では、盲目ではなく、盲目に「見える」ことが重要なの。それに、この芝居でリアルに盲目を演じられても、それは芝居ちがいと思われます。ジュッテンの盲目って、単に設定でしかないもの。記号だもの。
龍宇一にくらべれば、ダイズ丸役の橋本じゅんは健闘してる。ただ、初演の古田新太が良すぎた。セリフの切れ、歌のうまさ、すべてにおいて古田さんの方が上 (ダイズ丸として、です)。じゅんさんなりに好演しており、けっして悪くはないのだけど……。仲間のダイズ兵の質問に対する反応の素早さ、「最後の一花」の凄みとか、やっぱり古田さんに軍配があがる。

続投キャストの感想。
なんといっても、ハリコナAの阿部サダヲですよ! 動きもキレも申し分なし。ジュッテンやケガレを、かなり彼がフォローしていたんじゃないかしら。実年齢35歳で、なんであんなに可愛いの! あのキュートさは犯罪ですよ!
初演ではジュッテン役を演じていた宮藤官九郎は、今回はマジシャン役での登場。初演の山本密もよかったけれど、宮藤さんのマジシャンも好演です。目立ってました。色気あるー。前々から宮藤さんのことを、蟻んこのように人間を書くひとだと思ってましたが (「木更津キャッツアイ」以降のTVドラマに騙されてはいけない)、そうした彼の、虚無的なところが似合った役だった。ただ、彼の持ち味である軽みが、最後のガス撒きの哀しみを軽減してるのが残念。それ以外は、ほんとよかったですよ。
ダイタカスミ役の秋山菜津子さんは、言うまでもがな、いいですね。初演より少しオーバーで、はっちゃけた演技。ミサの前に現れた「1週間」でエフェクトをかけた声は、これも「分かりやすく」な演出の一環。
その他、杉村蝉之介のマキシ/ダイモク、荒川良々の月五郎/カミ2、宮崎吐夢など、初演と同じ配役なのが嬉しい。再演と初演と、どちらが好きかと問われれば、ごめん、やっぱり初演。だけれども、いい再演だったと思います。両方観られてよかった!