俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

鉈切り丸

PARCO THE GLOBE TOKYO PRESENT INOUE respects SHAKESPEARE 2013 "いのうえ シェイクスピア" 鉈切り丸 @東急シアターオーブ

【脚本】青木豪
【演出】いのうえひでのり
【音楽】岩代太郎

【出演】森田 剛 成海璃子
    秋山菜津子 渡辺いっけい
    千葉哲也 山内圭哉 木村 了
    須賀健太 宮地雅子
    麻実れい
    若村麻由美 生瀬勝久 ほか

11/17(日)13:00開演、於渋谷・東急シアターオーブ。上演時間は3時間20分 (休憩20分含む)。
タイトルがすごく長いけれど、要はシェイクスピアをリスペクトして、「リチャード三世」を平安末期〜鎌倉初期の、源頼朝兄弟に翻案したものです。
ざっと説明すると、せむしで片足を引きずる跛、顔には醜いあざを持つリチャードは、卑屈な表の顔とはうらはらに、性残忍にして狡猾な詭弁家であり、権謀術数を尽くして周囲を陥れ、権力の座にのぼりつめようとするが……という話。
脚本は「IZO」(人斬り以蔵が主人公) の青木豪。主演のリチャード三世=源範頼 (のりより)、別名「鉈切り丸」を演じるのも、「IZO」と同じ森田剛。「IZO」コンビじゃん〜。

正直、脚本の青木豪さんと新感線のタッグは「またか」感がハンパないのですが、今回の翻案はとてもよかったと思います。いろいろ上手いわー。台詞が浮かないのがよい。
鎌倉初期、という殺伐とした時代を持ってきたのもいいよね。現代から遠くて、ほどよくドライになれる感じがします。これが、たとえば戦国時代だと、もう少し身近で有名武将も多いじゃないですか。下手すると人情噺になりそうだし、中途半端に知っているだけに、当て込まれた登場人物にも茶々が入りそうです。
――そこで鎌倉初期の源氏兄弟ですよ。頼朝と義経は有名人ですが、「範頼」って皆さんご存じ? 私は実家周辺が範頼と縁のある在所なので、名前だけは知ってましたが、ふつう100人中99人は知らないと思います。
源範頼は、頼朝の弟にして、義経の兄です。ちなみに全員、腹違いの兄弟。実在はしているが、ほぼ無名の歴史人物に目をつけて、“リチャード三世”に仕立てあげたのはお見事。実際、よく歴史を調べてますよ、青木さん。

森田剛は、もともと演技のできる子でしたが、今回はかなり大変だったのではないでしょうか。役柄上、大きく身体を傾かせて跛行しなくてはならず、さらにその状態での殺陣まである。女性として見るに耐えない暴力行為もやるし、下卑た嫌らしさと同時に、孤独も浮き上がらせなくてはならない。よくやったと思います。「IZO」のときと同様、森田君に合った役柄だったのではないでしょうか。
本当に、やっていることはひどいのですが、「鉈切り丸」は哀れなんですよね……。欲望のままに物事を運ぶのですが、真実、欲しいものは手に入らないんですよ。それも、自分が欲しているとは気づかないの。人間の愚かしさが、すごくよく出たキャラクター。
個人的には、最後の「鳶〜」の独白が長すぎて、少しウェットになったのが惜しかったです。もっと素っ気ないくらい、虫けらのように死んでいってほしかった。私には、あの最期でも甘く感じました。まったくの「悪」というには、物悲しい。それが、青木脚本の「救い」なのかなあ。

物語がまー、暗いので、所々に笑いがちりばめられています。この舞台で一番の役得は、源頼朝の生瀬さんだね! ものすごく自由に笑いを振りまいていて、ほんと一番楽しそうでした。うらやま。政子は若村麻由美です。これも鬼嫁ぶりが楽しい(笑)。
巴御前成海璃子ちゃんは、……うん、がんばってました。彼女には映像が向いている気がします。舞台は正直どうだろう。他の演出家なら、どうにかなるんだろうか。
義経須賀健太くんです。演技うまい! でも地味! でもうまい!
木村了は、新感線は「蜉蝣峠」に続いて2度目の出演。この人、演技がくどくないのに、存在感があります。目のはしに姿を捉えてしまう役者さん。
それで、やっぱりいつ観てもいいのが秋山奈津子さん! 自分の産んだ子を疫病神呼ばわりして、会ったら殺すと言いながら、本当には殺せない。女と母の弱さを見せた役です。これは青木さんオリジナルのキャラクターかな? 原案の「リチャード三世」にはないよね? これも物語の好みですが、人間ドラマとしてキャラクター造型に含みを持たせるのなら、秋山さんの母はいいエピソードだと思います。徹底的な悪を描きたいなら、このターンは不要ではないかしら。鉈切り丸に「母は知らない」と言わせるだけで、よかったのではないかな。彼の空虚さが、より際立つと思うので。

そんな鉈切り丸を食う勢いで登場するのが、建礼門院麻実れいです。
まじで……mjで麻実れいさん、すごい!
出てくるだけで圧倒されます。場の支配感がたまりません。さすが宝塚の男役トップスター。私、麻実れいを観るのは初めてですが、ほんっとよかった。すごかった。これが主役級が放つオーラだと思いました。私、この建礼門院が一番好きかもです。

あ、そうそう書き忘れてた。今回、音楽が司さんじゃないのですね! でも新感線の舞台に問題なく馴染んでました。