俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

山田風太郎×長塚圭史

シアターコクーン・オンレパートリー2013+阿佐ヶ谷スパイダース「あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜」

【原作】山田風太郎『魔群の通過』
【作・演出】長塚圭史
【出演】
小栗旬 小日向文世 白石加代子 原田夏希 小松和重 古舘寛治 横田栄司 
福田転球 武田浩二 駒木根隆介 斉藤直樹 六本木康弘 木下あかり 後藤海春 
後田真欧 中山祐一朗 伊達暁 長塚圭史 中村まこと 大鷹明良 小野武彦

5/18(土)18:00開演、於・渋谷シアターコクーン
幕末の水戸天狗党の悲劇とその後日譚を描いた、山田風太郎の『魔群の通過』が原作。山田風太郎というと、初期ミステリに加え忍法帖もの、明治ものが有名どころですが、自ら「戦中派」というだけあって、この人の戦争に対する思いはかなり複雑です。
彼の小説を読むと、その虚無に驚かされることが多いですが、その発祥は8月15日の敗戦を機にした、世間のあからさまな手のひら返しでしょう。日中戦争の頃、山田は10代後半から20歳を迎えた医学生で、本当にね……日本人の精神の高邁さを信じていたんですよ、若者の純粋さで。原爆が落ちて敗色濃くなっても、日本を救うためには不撓不屈の意思で戦い抜くしかない、その殺戮に耐え抜いてこそ日本人の誇りは守られる――無名の一学生が、そんなことを日記にしたためていたんですよ、もう泣くよね、泣くしかないじゃないか。そんな若者たちが、戦後日本の「これからはアメリカさん」な軽薄さに取り残されたり、その波に乗っていったりするわけですよ。むろん、山田はその軽薄を拒絶した人間です。

前置きが長くなりましたが、日本を信じ、日本に裏切られた山田風太郎と、日中戦争に行った兵士の亡霊を描いた「悪魔の唄」を作・演出した長塚圭史は、相性がいいと思います。
水戸天狗党の挙兵とその敗走に、日中戦争の戦後を重ね合わせ、「尊王攘夷」と「八紘一宇」の旗印を表裏一体にしたところなど、よくしたものではないでしょうか。重い話だし、物語の進行も時間軸が前後して、とっつきがいいわけではなし、ちょっと退屈だった部分もありますが、幕末と敗戦直後の二重写しで舞台を構成したのは、原作の性格からしてもよかったと思います。できれば、理念(イデオロギー)だけで突っ走ることの闇も描いてほしかったなあ。
あと、戦後に腑抜けて、進駐軍の裏金をくすねたのはいいがニヒリズムにとらわれた男が、子供ができて生きる理由ができた、ガンバルゾー!というラストが、少し浮いて見えました。なんでだろう。

最後に、山田風太郎の作品3点をご紹介しておきます。最後の『戦艦陸奥 戦争篇』に収録されている「太陽黒点」はオススメ。この光文社から出ている「山田風太郎ミステリー傑作選」シリーズはいいですよ〜。

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)