俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

久しぶりに観劇

大人計画「ふくすけ」@Bunkamuraシアターコクーン

【作・演出】松尾スズキ
【出演】古田新太 阿部サダヲ 多部未華子皆川猿時 小松和重 江本純子 宍戸美和公 村杉蝉之介 平岩紙 少路勇介 オクイシュージ╱松尾スズキ 大竹しのぶ╱ほか

9/2(日)14:00開演、於・渋谷Bunkamuraシアターコクーン。上演時間は2時間45分(1幕:1時間25分、2幕:1時間05分。休憩15分含む)。
こちら、再々演の舞台です。初演は松尾スズキさんが外部に書き下ろしたやつで、再演が大人計画の別ユニット「日本総合悲劇協会 (略してニッソーヒ)」。
私は初演も再演も観ていなくて、今回が初観劇です。初演はまだ芝居を観ていない頃で、再演は仕事が忙しくてチケットすら取る気力がなかった時期だわ。
「ふくすけ」とは新興宗教の教祖に祭り上げられた水頭症の少年が主人公で、松尾スズキさんが20代の頃に書いた脚本だけあり、とても生々しい感情がぶつけられております。薬害、畸形、コンプレックス、歪んだ愛情。リストカット、覗き見趣味。痛いくらいに松尾スズキ。久しぶりにアテられた芝居でした。
松尾さんの芝居は「客観的に不幸、主観的に幸福」であることが多いと思うのですが、「ふくすけ」は悲しみ成分が勝っている気がします。私、久しぶりに芝居で泣いたもの。だって物語の鍵が、第九の「歓喜の歌」ですよ。もう泣くよ、泣くしかないじゃないですか。大竹しのぶ演じるマスと、その夫である冴えない中年男・エスダヒデイチの古田新太、二人の間に子供ができて「胎教にいいから」と聴かせる歓喜の歌。歓喜の歌を聴くと機嫌のよくなるふくすけ。すべてを知ったあと、歓喜の歌をボリューム最大に流して、自分を裏切った者たちへ復讐するヒデイチ。ラストの、一家3人で仲よくTVを観ている光景は、果たして誰の夢だったのか。
「死と再生」、それをつなぐ性。それらを暗闇から照射しています。松尾さんの芝居では「得た者は失う」構図がよく出てきますが、今回もそうでしたね。初期の芝居だけあって、けっこうグロテスクなのですが、松尾さんて、装飾的(デコラティブ)でゴシックな作りでも、透明感があるんですよ。反語的ですが、受ける印象はシンプルなんです。
人生の「どうしようもなさ」を、すごく愛惜をこめて描いています。そこが好き。だって「歓喜の歌」だよ〜 (まだ言ってる)。歓喜の歌といえば第九、第九といえばベートーベン、ベートーベンといえば「運命」。それに対する答えが「歓喜の歌」という、これまた反語的な使われ方。つっても、私が勝手にそう思っているだけですけれども。
でもさ、人間、つらすぎると、泣くを通りこして、笑うしかないじゃないですか。そうした意味での「運命」で「歓喜の歌」なんだと思うな。年末に「歓喜の歌」でリセットする日本人の感覚、意外といいんではないかしらん。

キャストも皆よかったですよねえ。冴えない中年男の古田新太、最初だれだかわかりませんでした。「なにこの人うまい! 文学座?」と思ってキャスト表見たら古田新太だったというオチ。少しだけ「木更津キャッツアイ」のオジーを思い出しました。
大竹しのぶのマスは、台詞で彼女の本音が語られる部分が一切ないから、難しかっただろうと思う。よくフラットに演じて、さすがです。平岩紙の盲目の女性サカエも、とってもよかった! 紙ちゃん、いい女優さんになったなあ。すごく安定してた。ホテトル嬢の多部未華子もかわいかった。声のトーンが、田村たがめさんぽかった。
ふくすけは阿部サダヲ。主人公とはいえ、狂言回しの意味合いが強いかな。そういえば、ふくすけとマスは最後に出会ったけれど、古田新太のヒデイチとは直接顔を合わせてないよね? やだーうろ覚えだよ。顔を合わせてないとすると、やはり父親とはむなしい存在ですな。