俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

カネカネ社会のもたらすもの

堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書) を読了。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

おいしいハンバーガーのこわい話』、『デブの帝国―いかにしてアメリカは肥満大国となったのか』、『戦争請負会社』、『子ども兵の戦争』と、今まで読んできた書籍をつなげ、かつ現況を報告してくれたような本だった。たとえば『おいしいハンバーガー〜』で、清涼飲料水やファーストフードが、給食にとって代わる勢いで学校に入り込んだのは、なぜなのか。イマイチわからなかったのが、『デブの帝国』を読んで「政府が、教育に金を出さなくなったから」だと知った。給食はおろか、学校運営ができないくらいに予算をカット (私立への助成金はもちろん、公立校も同様)。財源は自分たちで探せと、学校の「民営化」が始まったのだ。そこへ、ファーストフード会社や清涼飲料水メーカーが、「ウチを校内に入れてくれれば、給食はもちろん、学校運営に必要なカネを寄付しますよ」と、学校側にささやくわけ。
企業としては、子どもたちが自分たちの味に慣れ親しみ、将来のヘビー・ユーザーになってくれれば、十分モトがとれる。そうして出来上がるのが、栄養過多・失調の「肥満児」たちだ。栄養バランスの悪い高カロリーが毎食であれば、当然、健康を損なう。企業を校内に入れなくともすむ予算があるのは、いわゆる金持ち学校である。
このあたりの事情も、本書では分かりやすく書かれている。「フードスタンプ」の存在など、知らなかったよ……。上に列挙した本を読まずとも、この1冊で大要がつかめる好著だと思う。書かれてあることに興味を覚えたら、他の本に手を伸ばしてみてもよろしいのではないでしょうか。

また、健康を損なえばどうなるか。国民健康保険のないアメリカでは、医療費がちょっと考えられないくらい高額だ。入院したら破産、全然アリ。一度病気にかかれば、会社も民間医療保険の高額負担を怖れてクビ。既往歴があるだけで、再就職もままならない。
そんな失職者やワーキングプア、底辺校で将来の見えない若者、高額な大学学資ローンに喘ぐ学生たちを、今度は軍のリクルーター民間軍事会社が狙い撃ちする*1。そのへんの仕組みは、本書を読んでほしい。「胡麻の油と百姓は、絞れば絞るほど出る」「生かさぬよう殺さぬよう」とは、昔の人もよく言ったものだが、アメリカでは「生かさぬよう殺さぬよう」の上をいくようだ。貧困ビジネスで搾りとったあとは、使い捨ての砂漠。

*1:アメリカではベトナム戦争後、兵士の補充が徴兵制から志願制に切り替わった。少ない志願者をどこまで増やせるか、軍の必死な策略が見える。