俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

チャップリンの日本、チャップリンと日本

銀座の歩道もクリスマス。

今日は銀座へ。「没後30年記念 チャップリンの日本 〜チャップリン秘書・高野虎市遺品展〜」を見る。チャップリンの秘書は日本人だったんです。秘書の高野虎市を通して、チャップリンが大の親日家になったのがよく分かる展示でした。この主従二人の信頼関係がすごいんだ。それでも別れてしまう、というのがまた切ない。詳しくは下記感想にて。
 話が横道に。銀座へ行ったんだった。
久しぶりに、銀座の歩行者天国を歩く。歩道の樹々はクリスマス仕様。チャップリン展のあとは、三越のデパ地下や教文館書店を冷やかし、沖縄のわしたショップ無印良品を回遊。丸井のイトーピアは、有楽町駅から眺めただけで撤退する。〆はやっぱり、喫茶店でお茶ですね。あま〜く終わった3連休の最終日。

「没後30年記念 チャップリンの日本 〜チャップリン秘書・高野虎市遺品展〜」

東京国立近代美術館フィルムセンター、展示室の企画展。
昨年、京都・奈良で催された同展示の東京展である。チャップリンの秘書を18年間勤め、絶対的な信頼をおかれていた日本人・高野虎市の遺品から、チャップリンと高野、日本との関わりを見せる企画だ。チャップリンの孤独と愛情、高野との信頼関係、二人の晩年について思いが駆けめぐった。

チャーリー・チャップリンは、きびしい生い立ちの人だった。1歳のときに両親が離婚、母ハンナのもとで育つ。歌手の母が舞台上で声が出なくなり、飛び入りで舞台に立ち急場を救ったのが5歳。これが初舞台である。歌を失い職も失った母は、生活苦のあまり精神病院に入院、チャーリーと異父兄シドニーは孤児院と貧民院を転々とする。早く一家で暮らせるよう幼い頃から働き、舞台で研鑽を積んでいた。
いっとき心の病にかかった母ハンナだが、子供思いで、よく舞台の様子や街行く人々のパントマイムをして、チャーリーたちを喜ばせていたという。貧しくても上品であれ、と教えていたそうだ。「着物はぼろでも心は錦」ですね。のちのチャップリン映画「独裁者」で、ヒロインの名前が「ハンナ」なのは、もちろん母の名由来である。
英国からアメリカへ渡ったチャーリーは、すぐにハリウッド・スターの仲間入りを果たす。喜劇役者にありがちだが、素顔のチャーリーも気難しい人物だった。天才肌で、作品にいっさいの妥協をしない。そのために自分の映画スタジオを建て、膨大なリテイク・フィルムの山をつくり、脚本・監督・音楽のすべてを行った。
そんなチャーリーを支えたのが、秘書の高野虎市である。
最初は運転手で採用された高野だが、ちょうど会計係が使い込みでクビになり「お前やってみないか」??すべてを誠実にこなす高野は、信用されて秘書に昇格、チャーリーの面倒いっさいを見ることになる。屋敷やスタジオの差配、チャーリーへの手紙も高野宛、人の取り次ぎや私的な電話番号の管理も高野。チャーリーの遺産相続人の一人に高野の名前があるほどの、絶大な信頼だった。
高野もまた、その信頼によく応えた。気まぐれだが一代の天才であるチャーリーに魅せられた高野は、誠心誠意、二心なく尽くす。貧しい幼年期とスターとしての成功で、人の裏表をさんざん見たであろうチャーリーは、真面目で裏切ることのない高野にどれほど安心しただろう。人嫌いのチャーリーが、高野の紹介であれば喜んで会った。高野への信頼がそのまま、日本人と日本への信頼へつながった。一時期、彼の屋敷に日本人の使用人が17人いたくらい。展示の写真には、チャーリーの親日ぶりが多く見られる。歌舞伎と京都と天ぷらを愛した男・チャーリー。


秘書というより執事であり、主従を超えた絆でもって仕えた高野だが、18年で蜜月は終わる。
原因は女である。チャーリーの3番目の妻、ポーレット・ゴダート*1と、高野との不仲が原因だと言われている。高野をクビにしてしまったあと、チャーリーは戻ってきてほしそうな素振りをしたそうだが、高野は頑として戻らなかった。「あのとき、チャップリンは女の方をとったんだ」と、晩年まで悔しそうに語っていたとか。どんだけ強い絆なんすか! 変な意味ではなく、この二人の間には主従愛があったと思います。愛の分だけ、許せなかったんでしょうね。
チャップリンの秘書をやめた高野に、世間の風は冷たかった。面倒を見た者の大半がそっぽを向く。そのうち、チャーリーの遺産相続人一覧から名前が消えた。かつての同僚にも裏切られ、あげくはスパイ容疑で抑留所に入れられる。第二次世界大戦のさなかだった。
出所後、日系人の市民権回復に奔走ののち、日本に戻る。1961年のチャップリン来日にも、会いには行かなかった。しかしチャーリーに対する尊敬、敬愛は、終生変わらなかったという。チャップリンとのことを本にしては、という回りの勧めにも「文字は苦手だから」と断り、チャーリーの私生活は最後まで秘して語らなかった。サムライだなあ、と思う。

会場売りのパンフレットは、展示の写真はもちろん、山口淑子李香蘭)や、晩年の高野虎市婦人・東嶋トミエさんのインタビューなど、充実の内容。ちょいお高いけど、買っちゃった。
チャップリンと高野虎市に関しては、大野裕之チャップリン再入門』が詳しい。中野好夫訳『チャップリン自伝』も、すごく面白いですよ!

チャップリン再入門 (生活人新書)

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チャップリン自伝 上 ―若き日々 (新潮文庫)

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チャップリン自伝〈下〉栄光の日々 (新潮文庫)

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*1:ポーレット・ゴダート:女優。「モダンタイムス」「独裁者」のヒロインを務めた。