俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

カウリスマキのあかり・1夜

渋谷ユーロスペースで、アキ・カウリスマキの特集レイトショーを観た。小さなスクリーンだが、ほぼ8、9割がた埋まっている。人気なのね。

アキ・カウリスマキ「マッチ工場の少女」

1990年公開作品、70分。タイトル通り、暗っ! 公開当時、観たいなーと思っ たまま17年です。いつのまに。

荒涼とした筋立てながら、凹んで嫌気がさす、というのはなかった。主人公イリスが意識的に選んだのがわかるから。前半の選ばれない日々より、自らの意志で選択した後半に生を感じる。愛読書が『アンジェリク』なのが切ないわ。このシリーズ本を置いて、親のアパートを出ていくのが決別のしるし。全編暗喩、セリフを極力排し、映像で話を見せる。サントラ代弁がうまい。
幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭のありようは千差万別である、というようなことを書いたのはトルストイだが、蛇足を承知で付け加えると、不幸にも「型」がある。その、いろんな型を組み合わされて、ベタな不幸にいるのが主人公。不幸にも救済はあって、諦めて受容しちまえばそれなりに幸せなんだけど、主人公は受容しなかった。いや、いったん諦めた(自動車事故)んだろうけど、小津の「東京暮色」とちがって、死ななかったからね。
場面の飛ぶカットつなぎに、小津安二郎を連想したら、見当ちがいではないみたい。アキ監督は、19歳のときに小津の「東京物語」を観て、映画監督を志したんですって*1。無駄のないフィルム、様式美、乾いたユーモアにすごく納得。

*1:アキは、小津の墓参りにも詣でたとのこと。→「NHK BSファン倶楽部」渡辺支配人のおしゃべりシネマ館参照