俺はなでしこ

 はてなダイアリーから、2018年12月に引越してきました

染サダ

新橋演舞場にて

晴れ。昼までぐず寝、布団干しブランチ掃除お茶と、いつもの段取り。結局、家を出るのが遅くなり、せっかくの銀座を1時間しか見られなかった。
銀座を抜けて歌舞伎座を通りすぎ、新橋演舞場へ。新感“染”の「朧の森に棲む鬼」でございます。

ひとことで言うと、シェイクスピアの色悪。市川染五郎さんが徹頭徹尾の悪役、というのが見所の芝居。アオドクロの天魔王で「染はSだな…」と思った通り、魅せてくれた。2000年「阿修羅」以来の出来かも。阿部サダヲさんは言わずもがな。秋山菜津子さんの、場の支配がすごい。小須田さんの役が意外で笑った! キャスト、脚本ともにいい舞台です。リピーター増えそうだなあ。パンフレットにあった将来の抱負、新感染で「眠狂四郎」はぜひ実現を!
詳しい感想は下記をご覧いただくとして、カーテンコールの様子をば。
最後のカーテンコールで、染サダが隣り合わせの並びに、客席から花束が投げられたときの、サダヲさんの反応が面白すぎ。まるで手榴弾をくらったように(何!? なになに??)と、思いっきりビビって後ずさり、フーッてなった猫状態。中腰の警戒態勢のまま、花束を引っつかむと客席にほうり返してた。サダヲさん! その反応、まちがってるから!!!
そこにいくと、染さまはオトナだ(サダヲさんより年下だけど)。舞台袖に引っこむとき、下手に向かいながら自分の顔を指さして(私ですか?)と、先ほどの花束の客とアイコンタクト。YES、と投げられた花束をキャッチし、一礼と笑顔で報いて、悠々と袖に消えていく。かーっ、さすが歌舞伎俳優だね! 年期がちがうね。阿部サダヲさんも最近はウルルンに出たり、ゲイノウの人になったなあと思っていたけれど、やっぱり意識は小劇場のままのようで微笑ましかった。サダヲさんも袖にハケる際、花束から落ちたカードを拾いあげていたから、あとで身悶えしたんじゃないかしら、と想像するだけで楽しいおまけでした。

新橋演舞場「朧の森に棲む鬼」

【脚本】中島かずき
【演出】いのうえひでのり
【出演】市川染五郎/阿部サダヲ/秋山菜津子/真木よう子/高田聖子/粟根まこと/小須田康人/田山涼成/古田新太

1/4 (木)、18:00開演、於・新橋演舞場。第一幕18:00〜19:40、休憩30分、第二幕20:10〜21:25の、休憩込みで約3時間25分。
劇団☆新感線市川染五郎が組んだ、新感“染”である。染五郎の悪役が主眼の舞台。新感線と染の組み合せは5度目で新味に欠けるし、アオドクロの天魔王を思えば、悪役は似合うだろうけれど……というのが、実際に観るまでの正直な気持ち。
これが観たらふっとんだ。面白いわー!
話がシェイクスピアだと思っていたら、実際「リチャード三世」が元ネタで、それに酒呑童子伝説をからめたものだった。シェイクスピアの色悪なのね。染五郎阿部サダヲのコンビが、この設定は私のためかと思うくらい大ヒット。愛! 裏切り! 兄弟分!「おまえだけは」! 好みの展開すぎる。13巻まであたりの「ベルセルク」みたいでステキー。
とにかく、サダヲさんが最高なのだ。染、サダ、古田さんは「この程度はできて当然でしょ」と、つい厳しく観てしまうが、やっぱりいいわー。サダヲさん天才だわー。キンタ役が可愛すぎる。兄貴分のライ(染五郎)を無条件に信頼し、しっぽを振ってくっついていくさまがワンコだね。犬の目をしてる。そんなキンタをいたぶる、ライの嬉しそうな表情ったらない (Sだな…)。キンタとライの、ここの場面が一等好き。キンタまで裏切っちゃイヤー! という気持ちと、いやいやお約束の展開でしょ、サダヲさんをご覧なさいすごいよ、悲しみと怒りとやるせなさが渾然一体、切々と訴えかけてきてるよと心は振り子。まんまと策にのせられた感じ。
第二幕クライマックスの対峙は、個人的に食い足りなかった。サダヲさんには、パンフレットに松尾スズキさんが寄せた言葉どおり「欲をいえば、びっくりもしたい」んですよ! 予想の範囲内から飛び越えてほしい。あのう、失礼なことを承知で書くけれども、いのうえさんに「複雑な人間ドラマの心の綾」の演出は、つけられないと思うの。いのうえさんの真骨頂は、体の動きに型をつけて「どう格好よく魅せるか」であり、心の動きの演出ではないんじゃないかしら。今まで、拍子木カーン! で済ませてきたじゃないですか。中島さんの脚本も、基本的には萌えドラマで、人間ドラマとはちょっとちがうと思うのです (念のため、人間ドラマがエライというわけではありません)。
だから、妙に間を長くとられると、浮く。心の動きの演出がない限り、ここは役者の力量でしかカバーできないでしょう。染サダは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ浮いた、気がする。気のせいでしかないかもしれないけれど。
それでいうと、イチノオオキミの田山涼成さん、ツナの秋山菜津子さん、シキブの高田聖子さんはさすがだった。役を理解して、短いセリフでよく心情を伝えてくる。場の支配がすごいなー。
個人的に面白かったのが、小須田さんの貞光! 小須田さんがあんなキャラを演じるなんて、予想外で、それこそびっくりしたわー。しかもめっちゃ楽しそう。こんなに面白い人だったかしら。
いえのうえさんの言う「ドラマ」が何をめざしているのか、正直まだわからないのだけれど、いのうえ演出の生理的快感は変わらず。ぴたっとハマったときの気持ちよさは、理屈なくいい。で、やっぱりサダヲさん天才。さらなる高みをめざしてほしいです。